研究課題/領域番号 |
23510239
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研究機関 | 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構(新領域融合研究センター及びライフサイ |
研究代表者 |
鹿児島 浩 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構(新領域融合研究センター及びライフサイ, 新領域融合研究センター, プロジェクト特任研究員 (00550063)
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キーワード | 南極 / 極限環境 / 乾燥耐性遺伝子 / 凍結耐性遺伝子 / 線虫 / クマムシ / 比較ゲノム / 国際情報交換(イギリス:ニュージーランド) |
研究概要 |
本研究は、南極微小動物、特に線虫Panagrolaimus davidiの持つ強力な乾燥・凍結耐性遺伝子の同定を目的とする。以下に、平成24年度の研究成果を報告する。 1)新規LEA蛋白質の探索:昨年度までに南極線虫P. davidiから作成した5万クローンのcDNA配列解析を行い、この中から乾燥耐性遺伝子の候補として6種類のLEA遺伝子を見出した。しかし、低温刺激を行ったP. davidiのcDNA配列を詳しく調べてみたところ、これら既知の6種類のLEA遺伝子に加えて、今までに知られていない配列を持つ新規のLEA遺伝子が存在していることが判明した。そこで全cDNA配列を再度詳細に調べたところ、少なくとも4種類の新規のLEAが見つかった。そのうち一部は、既知のLEA遺伝子の配列とは大きく異なるアミノ酸配列の特徴を持っており、従来このタンパクの機能とされていた乾燥からの蛋白質の保護とは異なる機能(細胞膜の保護など)を持つ可能性が示唆された。 2)南極線虫の長期冷凍保存:南極で1983年に採取され、その後、25年間凍結保存された線虫Plecutus murrayiの回復・増殖に成功した。この凍結保存期間は生物として世界最長の記録である。本研究結果は国際的な科学雑誌Cryo Lettersに掲載された。 3)南極蘚類に生息するクマムシの種同定、および飼育法の確立:南極で2011年に採取され、冷蔵保存された蘚類サンプルからクマムシの単離、および実験室での飼育に成功した。これは形態的特徴、および18S RNA配列などからAcutuncus antarcticusと同定された。本研究結果は国際的な科学雑誌Journal of Limnologyに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の当初の計画では、乾燥耐性遺伝子候補である6種類のLEA遺伝子を実験モデル生物C. elegansに導入した生体内での機能解析、およびRNAi法を用いたP. davidiでのLEA遺伝子機能の阻害実験を予定していた。しかし、低温刺激したcDNAライブラリから新規のLEA遺伝子が見つかったことにより、当初の計画を一時中断し、全cDNAの詳細な配列解析を行った。その結果、複数の新規のLEAを見出すことに成功した。これにより、当初計画の研究には多少の遅延が生じたが、見落としていた新規のLEAを含めた全LEA遺伝子の解析を行うことが可能になり、さらにこの遺伝子の新たな機能の検討など、本研究の可能性を広げることが出来たと考えている。 また平成24年には、極地研から分与された蘚類サンプルから、南極の線虫P. murrayi、およびク南極マムシA. antarcticusを単離、飼育することに成功した。この研究は当初の計画にはなかったが、特に南極クマムシについては、海外の研究者からの供与されたP. davidiとは異なり、本研究に独自の実験モデル生物として使用出来、この種の単離・飼育法の確立は、今後の研究の進展に重要な成果と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1. LEA遺伝子の機能解析:平成24年度に見出した新規のタイプを含めて、LEA遺伝子を熱ショック誘導ベクターに組み替え、C. elegansへの遺伝子導入を行う。これら遺伝子導入株を用いて、熱誘導の有無で、乾燥・凍結に対する線虫の感受性の変化を調べる。熱誘導特異的に線虫が環境耐性を獲得した場合、その遺伝子を哺乳類の培養細胞などに導入し、遺伝機能の解析をさらに進める。また、これらの蛋白質の大量合成・精製による生化学的解析を行う。 2. P. davidiでのRNAi実験の条件検討:耐性候補であるLEA遺伝子について、特異的な機能阻害を行うため、その遺伝子の二本鎖RNAを発現する大腸菌を線虫に摂食させるfeeding法によってP. davidiでの遺伝子機能の阻害を試みる。 3. P. davidiタンパク質の発現比較による耐性遺伝子候補の探索:標準状態、低温または乾燥条件においた南極線虫P. davidiからのタンパク質の抽出を行い、標準状態でのタンパク質の発現状態と比較、低温、または乾燥ストレス下において発現が変化する耐性タンパク質を単離する。単離したタンパク質は質量分析装置により、これをコードする遺伝子の同定を行う。 4.南極クマムシA. antarcticusの極限環境耐性試験:平成24年度に新しく単離、飼育に成功した南極クマムシは環境の大きな変動(凍結・乾燥)が起こる陸上の蘚類から単離したが、最近、我々は凍結・乾燥環境に曝されることのない南極湖沼の蘚類から、同一種だと考えられるクマムシを単離した。前者は生存のために凍結・乾燥耐性を必ず持つが、後者にはこのような耐性は必要なく、遺伝的な差異が生じている可能性が考えられる。これらの種の比較ゲノム研究の開始に向けて、まずはこれらの環境耐性についての基礎的なデータを収集する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は消耗品については所属の新領域融合センターの予算を使用したため、本研究費からの物品費の執行を抑えることができた。今年度はこれまでの研究で必要、不足を感じていた落射型照明装置、電気泳動装置など比較的小型の装置の購入し、さらにDNAの配列決定や蛋白質の質量分析などのための消耗品などに予算を使用したいと考えている。
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