研究課題
ヒト癌細胞において遺伝子発現制御機構が破綻する要因のひとつである遺伝子増幅現象に的を絞り、ErbB2非発現乳癌細胞株であるHC1143株と樹立した原発性体腔内リンパ腫PEL細胞株2株(OS-1およびPSu)において、その遺伝子増幅領域で起こっている詳細な現象を細胞遺伝学的に解析している。(1)ErbB2非発現乳癌細胞株HC1143株の第19染色体上のNOTCH3遺伝子増幅領域を含むDNA断片であるYACクローンCTD-2538G16(171kb)をPFGE(パルスフィールドゲル電気泳動法)によりいくつかのDNA断片に分け、NOTCH3遺伝子の近傍の2遺伝子がこの増幅領域に含まれるかどうかを確認し、同時にRT-PCR法を用いて発現確認する予定であった。が、適当なDNA断片がまだ得られていない。(2)PEL腫瘍細胞株2株に認められた共通増幅領域をカバーするBACクローンを特定し、この領域内の物理地図を作成することを目標としていた。しかし、適当なBACクローンの選定に至っていない。(3)オリンパス社製高感度デジタル冷却CCDカメラおよび蛍光画像取得システムによる高解像度高画質な記録による解析を可能にするための周辺機器の充実をはかり、解析環境は大いに改善された。癌細胞に見られる染色体異常は多様であり、がん化の原因として、テロメア配列維持機構の破綻、BFB(breakage-fusion-bridge)サイクルによる染色体分離異常の結果として生じる細胞の染色体不安定性のメカニズムを解明することは重要である。しかし同様に、特定領域の遺伝子増幅現象は癌細胞の増殖にアクセルとして働いていると考えられ、そこに共通のメカニズムが存在するのかどうか明らかにすることはゲノム構成上、なぜその場所にそのユニットサイズで生じたのか、という問題も含めて充分解明する意義のあることだと考えている。
4: 遅れている
ヒトiPS細胞などの幹細胞株の染色体解析による染色体不安定性や四肢短縮タイプの矮小型ラットを産出するCCIラットにおける第1染色体トリソミー細胞が移植継代の結果癌幹細胞である可能が示されたことなど、複数の他のプロジェクトが進展を見せたこともあって、本研究目的の乳癌細胞株HC1143株やPEL細胞株での増幅領域を含む候補BACクローンの選定とFISH法による同定に費やした時間が少なかったために、研究実績として報告できる一定レベルの成果を挙げられていない。
乳癌細胞株およびPEL細胞株について、それぞれ以下のように研究を推進させたい。(1)NOTCH3遺伝子発現の亢進が増幅領域全体で起こっているかどうかを同定するために、まずSequential FISH法(RNA-DNA FISH)の基本技術取得に努める。また、RT-PCR法によりNOTCH3遺伝子の約30kb3’側に存在することが予測されている2遺伝子の発現を確認して、FISH解析と合わせて増幅ユニットに含まれるかどうか明らかにしたい。(2)最新のNIBI登録データによるBACクローンの再選定を行い、本研究の遺伝子増幅領域を含む可能性のある複数の候補クローンを購入して、FISH法により増幅領域を含んだ1q31.3-q32.1上のDNA断片を解析した上でアンプリコンを出来るだけ狭めてその物理地図を作成し、疾患候補遺伝子の可能性を絞り込みたい。
上記の目標を達成するために、BACクローンの購入費用、細胞培養のための費用、他の分子生物学的実験および顕微鏡観察するための経費、画像解析に必要な謝金を含めた経費、また、学会参加による研究成果報告と情報交換のための旅費を計上するつもりである。
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Journal of Cellular Biochemistry
巻: 112 ページ: 1206 - 1218
10.1002/jcb.23042