研究課題
散発生頭蓋骨縫合早期癒合症(Craniosynostosis)患者の頭蓋骨で高発現している遺伝子として発見されたNELL1は分子量約140 kDaの分泌タンパク質で、その組換えタンパク質やアデノウイルスによる強制発現系を用いた動物実験において骨分化を促進することから、新規の骨形成促進因子として骨再生治療への臨床応用が期待されている。しかしながら、NELL1の受容体およびそのシグナル伝達機構はよくわかっていない。本申請課題では、 (1) NELL1受容体の探索および同定、(2) NELL1の骨分化シグナル伝達経路の解明、(3) NELL1タンパク質の機能領域の解析、(4) NELL1およびNELL1受容体の機能を応用した骨組織再生治療法の基盤技術の確立を目的とした。本年度は昨年度に引き続き、発現クローニング法によるNELL1受容体のスクリーニングを進めるとともに、NELL1タンパク質の機能領域の解析を重点的に行った。その結果、NELL1の間葉系細胞に対する細胞接着活性を担う領域として、NELL1タンパク質のC末端側に位置するvon Willebrand factor type Cドメインを含む最小単位を同定した。この最小単位内には、弱い接着活性をもつ複数の部位が存在しており、これらの総合的な効果、おそらく立体構造が細胞接着活性に重要な働きをしていることが示唆された。一方、NELL1タンパク質のN末端側およびC末端側領域のどちらも、NELL1の骨分化誘導を担う細胞内のMAPKシグナルを活性化することを見出した。またNELL1の多量体形成機構を解明し、その役割について考察した。
2: おおむね順調に進展している
NELL1の受容体としてインテグリンファミリー分子を同定した。しかしながら、依然として骨分化誘導に必要な別の受容体の存在も示唆される。発現クローニング法およびプロテオミクス的手法によるNELL1受容体のスクリーニングを継続中であるが、いずれの方法でも受容体の候補となる陽性クローンは得られていない。前者に関しては、NELL1と結合する受容体発現細胞を選別する一細胞自動単離装置の機器の不調の時期があり、また一細胞PCRの条件の見直しが必要であったため、スクリーニング総数はあまり増えなかった。後者については、数通りの方法を試行したが、NELL1特異的なタンパク質バンドが得られず、さらなる条件検討が必要であると考えている。その他の研究計画については、おおむね順調に進展している。
NELL1受容体のスクリーニングを重点的に進めるとともに、成果が得られつつあるNELL1の細胞接着活性および骨分化誘導における機能領域の同定について解析をさらに進めていく。NELL1受容体のスクリーニングについては、一旦、一細胞自動単離装置の使用をあきらめて、古典的発現クローニング法、および手動で一細胞を単離する方法を併用する。NELL1の細胞接着活性については、インテグリン下流のシグナル伝達経路に関して、骨分化誘導との関連性を引き続き解析する。
初年度に、NELL1タンパク質を発現精製する細胞の培養方法を変更したことにより、培養装置の購入を中止したため生じた当該研究費を今年度に引き続き次年度にも使用する。次年度の研究費使用計画については、受容体スクリーニングを多角的に推進するために必要な試薬等の投入を増やす他、担当大学院生の国際学会への参加および国内学会の発表回数の増加を予定している。
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FEBS Letters
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doi: 10.1016/j.febslet.2012.06.014.
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