研究課題/領域番号 |
23510256
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
竹谷 茂 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 教授 (20121949)
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キーワード | heme biosynthesis / protoporphyrin / ALA-PDT / 5-aminolevulinic acid / cancer / frataxin / p53 |
研究概要 |
ALA-PDTの分子機構を癌細胞特異的なヘム合成の変異点を細胞質とミトコンドリアの中間体の代謝調節面から明らかにするために、ミトコンドリアの鉄代謝関連蛋白質の変動を中心に研究を行った。その中で、mitoferrinやsideroflexinはミトコンドリア内の鉄輸送に関与することが知られているので、これらの発現量を遺伝子導入によって増やしたところ、ALA由来のprotoporphyrin(PP)量が減少した。また、両分子をノックダウンさせた所、逆にPP量が増加した。これらの結果は鉄輸送の乱れが癌細胞でのPPの蓄積に関わっている可能性を示唆した。さらに、ミトコンドリアの鉄シャペロンであるfrataxinについても発現量の増減によって同様の蓄積の変化が認められた。特にfrataxin 安定発現株はミトコンドリア機能を高めた。一方、癌細胞では, frataxin発現が低下することが分り、frataxinの低下とALA-PDTが関係するのではないかと考えて、白血病細胞K562, 肝癌細胞HepG2等でのfrataxinの発現量を比較した所、癌抑制遺伝子p53変異細胞にて、極端に発現が低下していることが分った。そこで、マウスfrataxin遺伝子プロモーター領域のp53依存性発現を調べた所、-300bp付近にp53応答領域があり、p53応答配列と一致することが分った。また、CHIP assayでも、p53が同領域に結合し、癌細胞では結合しないことが分った。さらに、HEK293T細胞のp53をノックダウンさせるとfrataxinレベルが低下して、ALA-PDTを行った所、ノックダウンに伴って、PPの蓄積量が増加した。従って、p53の変異に伴って、ミトコンドリア内の鉄代謝に関与する蛋白質群が異常もしくは低下して、鉄利用が低下して、癌細胞特異的にPPの蓄積が起こる事を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
In vitroにおけるALA-PDTの研究では、多方面からのアプローチを行って着実に成果をおさめている。今回あきらかにしたp53とfrataxin発現の関係の多くのデータはマウス遺伝子を用いたものである。ALA-PDTは本来ヒトに適応されるべき方法であるので、ヒトのfrataxin遺伝子でのp53支配を証明する必要がある。ヒトのミトコンドリアの鉄代謝の発癌による異常についてさらなる研究が必要である。また、ポルフィリントランスポーターの候補としてのABCG2やglutamine transporterの研究も進めているが未だ不十分な部分が多い。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトfrataxin遺伝子の発現におけるp53の役割の解明をプロモーター活性やCHIP-assayを用いて癌細胞での発現の異常を明らかにする。 ヒト癌細胞におけるABCG2の発現とポルフィリン輸送体としての働きもしくは薬剤耐性の有無を確かめる。 酵母のALAおよびporphyrin要求株を用いて、ヒト発現ライブラリーのスクリーニングを行ってALA輸送体とポルフィリン輸送体の単離同定を試みる。 単離したALAおよびporphyrin輸送体の抗体を作製して、ヒトの癌組織での発現の変動を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度に予定外の収入を得たため残額が生じた。残額は次年度の研究費と合わせて以下の実験計画に使用する。 癌細胞のALA誘導性の光感受性の獲得については、ミトコンドリアの機能低下は 密接に関係することが考えられる。そこで、ミトコンドリアの機能維持に携わるPGC-1a, PPARg, PPARa RXRaなどの核内リセプターを介するヘム合成系や鉄代謝ならびに呼吸鎖分子群の癌化による変動を調べて正常細胞との違いの分子機構を明らかにする。またヒト癌細胞でのp53変異に伴う、鉄代謝関連蛋白質群の異常を調べ、frataxinの発現低下と関係を明らかにして行く。その中でも、frataxin遺伝子のエンハンサー、プロモーター部位を網羅的に解析して、p53応答部位を特定する。また、これらの分子の抗体を用いてミトコンドリア内での局在を調べる。 ヘム合成を支配する新規な分子であるSRR1の機能を調べるために、yeast two-hybridを用いるスクリーニングを行って、相互作用する分子を明らかにして行く。同時に、細胞内局在やRev-erba, RORaなどの核因子のヘム合成調節に及ぼす影響を調べて、情報伝達機能との関係を明らかにする。 ポルフィリン輸送体と考えられるABCG2については、既にHeLa細胞の安定発現株を樹立しており、ポルフィリンやヘム輸送への関与を調べる。また、酵母のポルフィリン要求変異株や細胞内へムレベル応答株を用いて、ABCG2の役割を明らかにする。また、ALA輸送についても、スクリーニングを行って、分子を特定して、癌細胞における発現レベルの関係を明らかにする事によって、ALA-PDTの分子機構を解明する。
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