研究概要 |
汎用性のある光学活性イノシトール誘導体を開発すべく検討を行ってきた。既に1-O-モノアセチルイノシトールが有望であることが分かっていたが、取り出しやすさなど実用面からすると、問題を残していた。そのため、最終年度にさらにいくつかの候補物質を探索してきた。その結果、対応する1,3-ジ(クロロアセチル)体のリパーゼによる加水分解で1-O-モノクロロアセチルイノシトールが光学純度良く得られることが分かった。酵素反応後、水中から簡便に取り出す手段として、長鎖チオールを作用させスルフィドとして直接抽出する方法が確立できれば、このモノアシル体が合成的に利用できる事が期待される。 一方、LiClがDMA (N,N-ジメチルアセトアミド)あるいはTHF溶液中で、隣接して配位性官能基をもつ第2級アルコールを特異的に活性化することを見出し、その合成的利用と反応機構についてさらに検討した。その結果、隣接官能基として水酸基やエーテル基ばかりでなくフッ素やエポキシド、ケトン基なども活性化に関与することが分かり、バラエティーに富むアルコールやポリオール類の選択的置換反応ができ合成的価値があることが示せた。LiClの特異的活性化への関与について、スペクトル解析を行った。Li-NMRの測定から、アルコールとLiClが1:1で相互作用する様子がうかがえた。IRでも両者の相互作用が観察され、とりわけ活性化には塩素アニオンのアルコール水酸基との水素結合が重要である事が分かった。 LiClの基礎的研究成果を活かして、イノシトールの簡便な官能基化が出きるようになった。本研究のバイオマスとしてのイノシトールの活用に有望な方法論となり、今後に期待される。この一環として従来合成困難なイノシトール1,3-ジ置換体が簡単に合成できたので、生物活性試験を行ったところ、細胞増殖阻害作用をもつ事が明らかとなった。
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