研究課題/領域番号 |
23510258
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
市川 善康 高知大学, 教育研究部自然科学系, 教授 (60193439)
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キーワード | 海洋天然物 / 全合成 / 有機合成化学 / 転位反応 / 含窒素天然物 / イソシアナート |
研究概要 |
協奏的な機構で進行する転位反応は,天然物合成において重要な役割を果たしている。例えばCope転位やClaisen転位反応は,炭素-炭素結合を立体選択的に構築するために欠かせない手法として汎用されている。これら転位反応は,立体障害のある位置に対して立体選択的に結合を形成することができるため,合成が難しい不斉四級炭素をもつ標的化合物の合成に威力を発揮してきた。 これに対して炭素-窒素結合を形成する協奏的な転位反応として,申請者はアリルシアナートの転位反応を開発した(Ichikawa, Y. Synlett 2007, 2927)。出発原料として光学活性なアリルアルコールから調製されるアリルカルバメートの脱水反応によって発生するアリルシアナートは,室温以下で転位反応が進行し,生成するアリルシアナートをカルバメートに誘導すれば,生成物として光学活性なアリルアミンを得ることできる。このアリルシアナートの転位反応特徴を活用して,従来の手法では合成が難しい窒素原子が結合した四級不斉炭素をもつ天然物の合成に焦点をあてて研究を行っている。海綿より抗菌活性を示す物質としてハワイ大学の故Scheuer教授によって単離・構造決定されたゲラニルリナロイソシアニド,北海道大学の小林によって,沖縄の万座ビーチから採取された海綿より単離・構造決定された海洋天然物であるマンザシジンB,メルク社が報告して免疫抑制作用が期待されている天然物であるスフィンゴファンジンEなどを標的化合物としては合成研究を行っている。ゲラニルリナロイソシアニドは絶対立体配置が不明であり,合成による構造決定が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
乳酸は両鏡像体が入手可能である。よって絶対構造が未決定な天然物の合成に適していると考え,乳酸エステルを出発原料として選び,絶対立体配置が未知のゲラニルリナロイソシアニドの合成研究を行った。スルホンカルバニオンを用いた炭素―炭素結合の生成反応や,Wittig反応による末端オレフィンの導入,さらにアリルシアナートの転位反応による不斉転写をもちいて窒素原子が結合した不斉四級炭素を構築して,合成に成功した。光学純度はイソシアニドの酸化反応によって発生するイソシアナートと光学活性なフェネチルアミンとの反応によって生成するウレアのNMR解析によって決定した。さらに合成品と天然物の旋光度を比較して,未解明であった天然物の絶対構造を決定した。 グルコノラクトンを出発原料とするスフィンゴファンジンEの合成を行った。ヒドロキシル基の選択的保護を行い,分子内Horner-Wadsworth-Emmons反応によってシクロへキセノンの合成を検討したが,低収率の結果であった。現在,主発原料をマンニトールに代えて,合成を検討している。 乳酸を出発原料とする光学活性なマンザシジンBの合成研究を行った。Evansのイソチオシアナートを有するキサゾリジノンをもちいた不斉アルドール反応でアミノアルコールの中間体合成を検討した。しかし再現性が得られず低収率であった。触媒となるルイス酸,あるいはリチウムエノレートの反応を検討して,アリルシアナートの転位反応の中間体を合成する計画である。
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今後の研究の推進方策 |
マンニトールを出発原料とするスフィンゴファンジンEの合成研究を計画する。アセトンとマンニトールとの反応によって,マンニトールのアセトニド誘導体を合成する。末端のアセトニドを選択的に加水分解してジオールに誘導する。シリル基を用いて,一級のヒドロキシル基を選択的にシリルエーテルに変換して保護する。残った二級水酸基を酸化してWittig反応で増炭する。さらにアリルアルデヒドに誘導して,ジエチル亜鉛の不斉付加反応によって,二級のアリルアルコールとする。合成したアリルアルコールを用いてアリルシアナートの転位反応を行い,スフィンゴファンジンEの窒素が結合した不斉四級炭素を構築してスフィンゴファンジンEの右側部分を合成する計画である。 スフィンゴファンジンEの左側部分に関しては,ビニルホウ素のトランスメタル化反応により調製される有機亜鉛のアルデヒドに対する付加反応を用いる合成ルートと,ヨウ化ビニルから調製される有機クロム試薬をもちいる同様の反応を用いる方法を検討する計画である。 マンザシジンBの合成研究に関しては,Evansのイソチオシアナートを有するキサゾリジノンの代わりにイソシアノ酢酸エステルを用いた不斉付加反応によって,1,2-アミノアルコール部位を構築する計画を考えている。この反応に用いるアルデヒドは,乳酸から誘導する。そして1,2-アミノアルコール部位を構築後にアリルシアナートの転位反応によってマンザシジンBのもつ窒素が結合した不斉四級炭素を合成する計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度の後半辺りで,使用してきたエバポレーターと冷蔵庫(購入してから10年以上が経過)が不調になっている。次年度で修理あるいは買い替えを予定して,繰越金を予定した。また,最終年度の研究を完遂するために,いままで高価のために研究室で調製してきた試薬に関して,最終年度は購入して迅速に研究を完遂するために繰越金を考慮した。
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