協奏的な機構で進行する転位反応は,天然物合成において重要な役割を果たしている。例えばCope転位やClaisen転位反応は,炭素-炭素結合を立体選択的に構築するために欠かせない反応として重用されている。これら転位反応は,立体障害のある位置でも立体選択的に結合を形成することができる。このため,合成が難しい不斉四級炭素をもつ天然物の合成に威力を発揮している。 申請者は,炭素-窒素結合を形成する協奏的な転位反応として,アリルシアナートの転位反応を開発した。光学活性なアリルアルコールを出発原料として調製されるアリルカルバメートを脱水すると,不安定な化学種としてアリルシアナートが発生する。生成したアリルシアナートは,室温以下で速やかにアリルシアナートに転位する。生成したアリルイソシアナートをカルバメートに誘導すれば,保護された光学活性なアリルアミンを生成物として得ることできる。 このアリルシアナートの転位反応の特徴を活用して,スフィンゴファンジンEの合成研究を行った。スフィンゴファンジンEは,メルク社が単離を報告した免疫抑制作用が期待されている含窒素天然物である。マンニトールを出発原料として,有機亜鉛の不斉付加反応によって,立体選択的にアリルアルコールを調製した。そして,このアリルアルコールから調製したアリルシアナートの転位反応を活用して,スフィンゴファンジンEと一致する窒素原子が結合した四級不斉炭素の構築に成功した。
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