研究課題/領域番号 |
23510259
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
橋本 雅仁 鹿児島大学, 理工学研究科, 准教授 (30333537)
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キーワード | アレルギー / 自然免疫 / 発酵食品 / 微生物 |
研究概要 |
近年アレルギー患者が増加しており、社会的に問題となっている。この原因として、細菌成分への暴露機会の減少が影響するという「衛生仮説」が提唱されている。そこで、人為的に細菌成分に暴露させ免疫応答を制御することが考えられ、プロバイオティクス食品などに利用されている。しかし、その有効成分についての情報は少ない。そこで本研究では、アレルギー抑制効果が示されている発酵食品に注目して、その有効成分について検討する。本研究では、代表的な発酵食品として、乳酸発酵食品および黒酢をターゲットにし、これら製品および主要な発酵細菌である乳酸菌と酢酸菌を用いて、以下の3点、1)自然免疫および獲得免疫を調整する成分の分離 、2)アレルギー抑制機構、3)成分の化学構造について明らかにする。 本年度は乳酸菌を主要なターゲットとして以下の点について検討した。A)アレルギーを抑制しうる成分の分離精製。まず、乳酸菌から菌体成分の抽出分離を検討した。乳酸菌は細胞壁が固いため、細胞壁の破砕のため、超音波破砕、ガラスビーズ破砕、酵素消化を試みたが満足いく結果は得られなかった。この破砕物から抽出したところ、活性画分の収量は極わずかであった。これは加熱死菌を用いたため、表層タンパク質が不溶化し、菌体成分の分散が悪かったことが原因と考えられた。そこで生菌からの成分分離を試みたところ、容易に活性画分が分離しうることが明らかとなった。B)アレルギーを抑制しうる成分の同定。上記で少量分離した成分はタンパク質と予想されたので、質量分析による同定を試みた。ゲル内トリプシン消化で得たペプチドを分析したところ、二種類のタンパク質を同定できた。現在、活性最小構造の分析を実施している。C)マウスを用いたアレルギーの抑制の検討。今年度は免疫方法について検討し、使用するアジュバントに問題があったことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、発酵食品の活性化成分の分離法の改善と、その構造について検討することを目的としていた。乳酸菌については、菌の破砕方法を検討したが、最終的に死菌では満足いく結果が得られず、生菌から分離すべきであることが分かった。これは、普通のグラム陽性菌に比べ、乳酸菌が大幅に固い構造を持つことから事前に予想すべき点であったが、検討に時間を要した。しかし、生菌を使用する方法を見いだせたため、今後の研究の進展には問題はない。また、成分もタンパク質と同定できたことから、今後は大量分取によって活性構造を決定できると考えられる。 一方で、前年度も課題であったマウスを用いたアレルギーの抑制の検討については、免疫時の安定性に問題があることが分かった。今後、アジュバントの変更を含め検討して行く予定である。 以上のことから、一部遅延が見られるものの、本年度はおおむね順調に研究が進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに、乳酸菌由来成分の分離法が確立でき、全体構造の同定までできたことから、今後は成分の活性最小構造の決定を目指す。 本年度に、タンパク質成分であると同定したことから、来年度はこれを活性を保持した状態で小分子量化し、単離する。これらの分子を、質量分析、核磁気共鳴を用いて解析し、推定構造を明らかにする。 また、本年度に終了しなかった、パイエル板細胞を用いた活性化能の検討、および現在遅延が見られるマウスを用いたアレルギー抑制の検討も引き続き検討する。パイエル板細胞の分離は、本年度に外部から技術を導入できたため、来年度は活性化能について検討する。一方、マウスのアレルギーの抑制については、アジュバント変更により、安定した免疫の実施を試み、系の立ち上げを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
成分の抽出精製、構造解析、生物活性の測定には、試薬類、測定キット、実験動物、ガラス、プラスチック製品等の購入が必要不可欠であり、消耗品費として計上している。 本研究において最新の動向を知る必要性及び研究成果の積極的な公表のため学会出張費を国内旅費として計上している。なお、交通費、宿泊費、日当は学内の旅費規程に従って算出している。 積極的に学術雑誌への論文投稿のためには、外国語論文の校閲の費用が不可欠である。動物の飼育及び生物活性の測定には専門的知識を有する補助員を雇用する必要がある。なお、謝金に関しては、学内の規定に従って算出している。 構造解析や、生物活性測定に必要な学内共通設備の使用、および成果の印刷・公表費用を計上している。
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