研究概要 |
本研究は、プロテオミクス技術に基づく申請者独自の実験系により、タンパク質キナーゼ基質の簡便な同定法の確立を目指すものである。キナーゼの生理的機能を明らかにするためには、その基質の網羅的な同定が必須である。本実験系は、in vitroリン酸化系を用い、プロテオミクス技術を組合わせ、キナーゼ基質を効率良く同定したものである。また、細胞よりキナーゼを免疫沈降し、その基質をキナーゼ結合タンパク質として同定する方法も検討した。 本研究においては、細胞抽出液中のタンパク質を脱リン酸化した後、特定のキナーゼ(p38 MAPキナーゼをモデルキナーゼとして用いた)によりリン酸化させ、リン酸化タンパク質精製、二次元ゲル電気泳動と組合わせることにより、効率よく基質を同定することに成功した(Iida ら Electrophoresis, 2014)。二次元ゲル電気泳動法によるキナーゼ基質の同定は、LC-MSによる同定に比べ、化学量論比で高いリン酸化率を示す基質のみが単離され、生理的に意義のあるリン酸化が選択的に同定できることが判明した。 また、キナーゼに結合したタンパク質としての基質同定法では、mTOR キナーゼを含むmTORC2 複合体を免疫沈降し、回収された結合タンパク質Filamin A のmTORC2 によるリン酸化と細胞運動に対する効果について検討した(Sato ら Mol. Cell. Biol., 改訂中)。その結果、Filamin AはmTORC2の特異的構成因子であるRictorに結合していること、mTORC2特異的にリン酸化され、インテグリンとの結合が増加し、細胞接着斑形成を促進することが明らかとなった。これらの結果は、従来不明であったmTORC2による細胞骨格制御の仕組みを明らかにしたものである。
|