研究課題/領域番号 |
23510270
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研究機関 | 公益財団法人微生物化学研究会 |
研究代表者 |
百瀬 功 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所 沼津支所, 主席研究員 (10270547)
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キーワード | プロテアソーム阻害剤 / インビボイメージング |
研究概要 |
本研究は「インビボイメージングを用いた経口投与可能なプロテアソーム阻害剤の開発と抗がん剤としての応用」である。昨年度はインビボイメージングで腫瘍内プロテアソーム阻害活性を測定する方法の改良を行い、より短時間で効率的に測定できる系を開発し、スループット性の向上を図った。一方、以前に我々が放線菌Kitasatospora sp. MK993-dF2株の培養液より発見した新規プロテアソーム阻害剤チロペプチンをプロテアソーム阻害剤のリード化合物として定め、これまでに数十種類の誘導体を合成してきた。その中から2つの誘導体においてその生物活性を詳細に調べ、マウスを用いたヒト多発性骨髄腫モデルにおいて抗腫瘍効果を示すことを明らかにした。今回さらに誘導体の拡充を図るべく誘導体合成およびその生物活性の評価を行った。経口吸収性の良い化合物を創製するためには、胃で溶けて血中に移行するために水溶性でなければならないが、細胞の脂質二重膜を通過する為には脂溶性の性質を併せ持つ必要がある。チロペプチンはペプチド性化合物であることから水溶性の向上および物性のバリエーションの拡充を目指して、酸性や塩基性、中性等の様々なアミノ酸を導入した誘導体を合成した。全体の傾向として水溶性が増加するとプロテアソーム阻害活性が低下することがわかった。また経口アベイラビリティーを向上させるために、リピンスキーの法則に従いチロペプチンの低分子化を試みた。分子量を2/3ほど小さくしてもプロテアソーム阻害活性を維持していることが確認でき、現在こちらにおいても様々な誘導体合成している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は経口投与で有効な抗がんプロテアソーム阻害剤の開発である。プロテアソーム阻害剤のリード化合物に定めたチロペプチンは、古典的なトリペプチドアルデヒドに属する。チロペプチン誘導体の合成において、チロペプチンのペプチド鎖はオリジナルの配列を維持したままC末のアルデヒド基をボロン酸へ、N末およびアミノ酸側鎖のアシル化を試みてきた。得られたチロペプチン誘導体はプロテアソームに対して阻害活性が増加したが、脂溶性も相まって向上した。経口吸収性の化合物には水溶性と脂溶性の性質を併せ持つ必要があり、そこでチロペプチンのオリジナルアミノ酸配列の1つを様々なアミノ酸に置換することにより、酸性、塩基性等の性質を付加したチロペプチン誘導体を合成した。これによって水溶性の向上したバリエーション豊かな誘導体を得られたことは、本研究の目的を遂行するために現在まで順調に進展していると考えられる。また経口吸収性を向上させるためには、リピンスキーの法則から低分子であることが有効と考えられている。そこでチロペプチン誘導体の低分子化を行い、2/3程度に低分子化が成功したことは本研究の目的への到達に大きく前進したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
「インビボイメージングを用いた経口投与可能なプロテアソーム阻害剤の開発と抗がん剤としての応用」研究を推進するために、下記の実験方策を計画している。 <1.チロペプチン誘導体の合成>チロペプチン誘導体の低分子化に成功したので、低分子化チロペプチン誘導体において、構成アミノ酸を置換した誘導体を合成する。<2.チロペプチン誘導体のマウス経口急性毒性の測定>In vivoイメージングにおける薬剤投与量の決定のために、マウスにおける急性毒性を調べる。ICRマウスに各誘導体を経口投与し、マウスの生死に基づきLD50値(50% Lethal Dose)を決定する。また体重変化および体調を一定期間観察した後、解剖観察および各臓器重量を計測することにより毒性を調べる。<3.In vivoイメージングを用いたチロペプチン誘導体のマウス腫瘍内プロテアソーム阻害活性>一昨年度樹立したプロテアソーム分解性蛍光タンパク質発現細胞をヌードマウスに移植し、腫瘍の大きさが1,000-1,500 mm3になったところで、各誘導体を経口投与する。24時間後に腫瘍内のプロテアソーム分解性蛍光タンパク質の蓄積をin vivoイメージングにて測定する。<4.薬物動態の測定>in vivoイメージングで経口吸収性が示唆された誘導体において、LC-MSを用いてマウスにおける薬物動態を詳細に調べる。<5.経口吸収性プロテアソーム阻害剤の抗腫瘍活性>ヒトがん移植マウスモデルにおいて、チロペプチン誘導体の経口投与による抗腫瘍活性を調べる。腫瘍体積、腫瘍重量、腫瘍内プロテアソーム活性など詳細な解析から、新しい経口投与可能な抗がん剤としての可能性を追求する
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は主に、マウスを用いたIn vivoイメージングを中心に研究を行う予定である。実験動物として免疫不全マウスを多数購入する必要があり、麻酔薬やサンプルチューブ、注射筒等の消耗器具も必要になる。またマウスに移植するプロテアソーム分解性蛍光タンパク質発現細胞を大量に調製するために、細胞培養に必要な培地や血清、添加剤等の培養試薬や、培養シャーレやピペット等のプラスチック器具が必要になる。また薬物動態の検討や誘導体の合成において、HPLCカラムや合成試薬が必要である。その他として、日本癌学会、がん分子標的治療学会に参加する為の旅費や、論文校正代を予定している。
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