研究課題/領域番号 |
23510270
|
研究機関 | 公益財団法人微生物化学研究会 |
研究代表者 |
百瀬 功 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所 沼津支所, 主席研究員 (10270547)
|
キーワード | プロテアソーム阻害剤 / インビボイメージング |
研究概要 |
本研究は「インビボイメージングを用いた経口投与可能なプロテアソーム阻害剤の開発と抗がん剤としての応用」である。これまでにプロテアソーム分解性蛍光タンパク質を発現するヒト大腸がんRKO(RKO-PS3)細胞を作製し、この細胞をマウスの皮下に移植した腫瘍モデルマウスを用いて、腫瘍内プロテアソーム阻害活性を効率的に測定できるインビボイメージングの系を開発した。一方で、以前に我々が放線菌Kitasatospora sp. MK993-dF2株の培養液より発見した新規プロテアソーム阻害剤チロペプチンをリード化合物として、これまでに数十種類の誘導体を合成した。今回は経口プロテアソーム阻害剤のポジティブコントロールとしてCEP-18770を合成し、CEP-18770の抗腫瘍活性を調べると共に、各種チロペプチン誘導体の経口投与による腫瘍内プロテアソーム阻害活性を調べた。合成したCEP-18770の経口投与によるマウス急性毒性を調べたところ、25 mg/kgの単回投与で死亡した。そこでヒト多発性骨髄腫RPMI8226細胞腫瘍を形成させたマウスに、CEP-18770を週1回15 mg/kgおよび週2回10 mg/kgを経口投与したところ、いずれの投与スケジュールにおいても顕著な腫瘍増殖抑制効果を示した。さらにRKO-PS3細胞腫瘍を形成させたマウスに15 mg/kgの CEP-18770を経口投与したところ、24時間後に腫瘍内に明らかな蛍光タンパク質の蓄積が認められた。これらのCEP-18770のデータを利用して、我々の開発したチロペプチン誘導体の経口投与による腫瘍内プロテアソーム阻害活性についてインビボイメージングを用いて調べたところ、数種のチロペプチン誘導体が50 mg/kgにおいて顕著な蛍光タンパク質の蓄積を示した。現在、他のチロペプチン誘導体において順次確認している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は経口投与で有効な抗がんプロテアソーム阻害剤の開発である。創薬研究において化合物の創製と探索系の開発はいずれも重要である。化合物の創製については、これまでに我々が見出した新規プロテアソーム阻害剤チロペプチンを基に、プロテアソーム阻害剤で臨床応用されているbortezomibの部分構造を取り入れたハイブリッド型の誘導体をリード化合物として、様々な構造の誘導体を合成した。一方で、目的とする活性を持す化合物をいち早く見出すためには、スループット性に優れた探索系の開発が不可欠である。そこでサンプルと時間を節約しつつマウスにおける抗腫瘍活性の代替となる「インビボイメージングを用いた腫瘍内プロテアソーム阻害活性」の測定法を開発した。この系を用いることより薬剤投与24時間後に生きているマウスの腫瘍内プロテアソーム阻害活性が計測できるようになり、大幅な時間短縮およびサンプル量の削減を実現できた。現在、この系を用いてチロペプチン誘導体の経口投与による腫瘍内プロテアソーム阻害活性の測定を実施中であり、すでに数種類の化合物においてはプロテアソーム阻害活性が認められており、さらに強い阻害剤を探索している。
|
今後の研究の推進方策 |
インビボイメージングを用いて経口投与可能なプロテアソーム阻害剤を開発し、抗がん剤としての応用するために、これまでの実験結果を踏まえて下記の実験方策を計画している。 【1. インビボイメージングを用いたチロペプチン誘導体のマウス腫瘍内プロテアソーム阻害活性】昨年に引き続いて、マウスへの経口投与で腫瘍内のプロテアソーム阻害活性を示すチロペプチン誘導体をインビボイメージングを用いて探索する。具体的にはシャーレで培養したプロテアソーム分解性蛍光タンパク質発現ヒト大腸がんRKO-PS3細胞をヌードマウスに接種し、腫瘍容積が1,000-1,500 mm3になったところで、各種のチロペプチン誘導体(50 mg/kg)を経口投与する。投与24時間後にマウス腫瘍内におけるプロテアソーム分解性蛍光タンパク質の蓄積をOV110インビボイメージングシステムを用いて測定する。 【2. 再現性試験および用量依存性試験】上記1において蛍光増強が認められたチロペプチン誘導体において再現性を確認し、投与量の変化における用量依存性を調べる。 【3. 薬物動態】経口投与により腫瘍内プロテアソーム阻害活性が明らかとなった誘導体は、LC-MSを用いてマウスにおけるPK/PD試験を実施し、各種薬物動態パラメータの算出から抗腫瘍実験における適切な投与スケジュールを設定する。 【4. 経口投与による抗腫瘍活性】ヒトがん移植マウスモデルを用いて、チロペプチン誘導体の経口投与による抗腫瘍活性を調べる。腫瘍体積や腫瘍重量から効果を判定し、詳細な組織学的解析や生化学的解析から新しい経口投与可能な抗がん剤としての可能性を追求する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
残金の端額が生じたため次年度に繰り越した。 次年度はマウスを用いたインビボ実験を中心に行う予定である。実験動物として用いる免疫不全マウスは研究所からのサポートで賄われるが、細胞を大量に培養する際に必要な培地や血清、培養シャーレやピペット等のプラスチック器具の購入を計画している。細胞をマウスに接種する際には、マトリックスとしてマトリゲル、サンプルチューブ、麻酔薬、注射器等が必要になる。薬効の解析のために、組織切片の作製および免疫染色などに必要な抗体、プロテアソーム活性測定に必要な生化学試薬等も必要になる。薬物動態を調べる際には、血液サンプルの前処理のために除タンパクフィルターや、分析のためのHPLCカラムや有機溶媒等が必要である。その他として、国内学会参加旅費や研究成果報告書の製本代としての使用を計画している。
|