研究概要 |
本研究の最終目標は,野外で実用化しうる野生化アライグマに対する避妊ワクチンの開発である。実用的なワクチン開発は本申請研究期間の3年で完了できるものではないことから,本研究はワクチン開発に向けた基礎研究として位置づけた。本研究では,(1)避妊効果をもたらす卵透明帯蛋白質抗原の決定,(2)免疫試験による飼育個体への避妊効果の検証,(3)他の在来種への避妊効果発現のリスク評価,の3テーマを主な目的とした。 研究最終年の平成25年度は,ワクチン抗原候補として卵透明帯蛋白質ZP3の一部である「精子-卵結合部位」の塩基配列を含む2種類の合成蛋白質をて作成し,これらをウサギに免疫して抗血清を得てアライグマや他種動物への影響を評価した。 3年間の主な研究実績は,以下の4点である。①避妊効果をもたらしうるワクチン抗原として卵透明帯蛋白質に着目し,ZP3の塩基配列(1,270bp)を解読した,②アライグマZP3の精子-卵結合部位のアミノ酸配列では他種食肉目動物(イヌ,オコジョ,マングース)と一部重複し,共通のエピトープを有していることを明らかにした,③精子-卵結合部位のアミノ酸配列を含む2種類のワクチン抗原α,β(共に19AAの合成蛋白質)に対する抗血清のうち,抗β血清でアライグマ卵透明帯との結合を免疫組織化学で確認した,④しかし,抗β血清はタヌキ,マングース,ツキノワグマ,イヌの卵透明帯とも結合が確認され,合成蛋白質βを抗原とした避妊ワクチンがアライグマ以外の動物にも影響を与える可能性があることが示された。本研究では,抗原候補とした合成蛋白質の種特異性,これら抗原候補を飼育アライグマに投与して避妊効果を評価することができなかったが課題となった。しかし,本種の個体数増加を抑制しうる新手法として,避妊ワクチン開発の期待は大きく,引き続き研究を発展させることが必要である。
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