研究課題/領域番号 |
23510294
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松井 正文 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (40101240)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 両生類 / オオサンショウウオ / 交雑 / 中国産 / 遺伝子汚染 |
研究概要 |
5年前にミトコンドリアDNA遺伝子を用いて、京都賀茂川に外来種チュウゴクオオサンショウウオが存在することを報告し、平成20年から22年にかけては科学研究費の助成を受けて本格的な調査を行った。この間に母系遺伝するため父親由来の遺伝情報が不明なmtDNA遺伝子の欠点を補うために、古典的なアロザイム解析を加え、在来種と外来種との雑種の存在を確認した。しかし、アロザイム解析には、組織を冷凍運搬・超低温冷凍庫で保管しなければならないという欠点があり、また良質な解析用澱粉が入手困難なために雑種判定の精度にも疑問が残されていた。そこで本年度はエタノール保存組織の使用が可能で、両親由来の核DNA情報を与えてくれ、かつ判別精度も高いことが期待されるマイクロサテライトの開発を進めた。その結果、雑種判定に有効な遺伝子座を複数発見した。すなわち、ミトコンドリアDNA解析用と同様の組織試料を用いて確実に素早く、検体が雑種か純粋種かを判定することが可能になった。 この新たな手法を用いて、過去に蓄積されたものおよび、本年度の野外調査で得られた合計148個体のサンプルを解析した結果、賀茂川本流のオオサンショウウオの92%の個体(107個体中、98個体)は雑種であることが判明し、これまでのアロザイム解析に基づく推定の正しさが証明されると同時に、問題の深刻さが改めて認識された。さらに本年度の成果の一つとして、同様の事態は水系が連続している鞍馬川や高野川だけでなく、遠く離れた桂川水系の花背、広河原でも生じていることさえも明らかにした。この事実は未だ調査の行なわれない多くの河川でも、外来種による交雑のある可能性を強く示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述のように、雑種判定に有効なマイクロサテライトを年度内に開発できたことは大きな成果である。なぜなら、マイクロサテライト解析は、現在多くの生物の遺伝的多様性や雑種判定の研究で用いられている手法ではあるが、生物群によっては、目的に適した適度な変異を持ち、容易に解析に供することのできる遺伝子座を特定することが困難で、その開発には通常多額の実験経費を必要とするからである。特にオオサンショウウオを含む両生類の有尾目では開発例が比較的少なく、マイクロサテライト開発の困難な生物とされてきた。 また、開発したマイクロサテライトにより、これまでアロザイム解析で特定されて来た雑種推定の精度も確かめられ、これまで以上に効率よく実験が行われた。その結果、これまで雑種が知られていなかった水系からも雑種の存在が確認され、更に今後の解析によっては戻し交雑など、雑種の内訳の識別も可能になる可能性がある。そうなると更に詳しい雑種個体群の履歴が追跡できることになり、雑種蔓延の歴史やルートを探る上で画期的な技術となる可能性がある。 また、オオサンショウウオの野外調査は、夜間に河川内において行なわれるために常に危険を伴い、効率の悪い調査になりがちである。しかし、本年度はこれまでの調査経験や熟練者からの助言も積極的に得ることで、過去に調査されたことのない水系にまで調査範囲を拡げて、事故もなく無事に調査を終えて十分な成果をあげてきたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は調査範囲も拡大し、更に多くの個体の雑種判定を進める予定である。ただし調査には多大な時間や人員を要するので、急にそれほど大きく調査範囲を拡げることはできない。新たに雑種の成体が発見された地点では幼生調査も進めて、雑種が現在も繁殖しているのか確かめ、個体群内における雑種の割合を更に正確に推定することを試みる。賀茂川水系ではかなり調査が進んでいるが、それでも未調査の支流があるため、次年度以降はそのような支流においても調査を行って最終的には賀茂川全域を網羅することを目指す。 マイクロサテライトの開発には成功したがまだマーカー数が少ないため、次年度はさらに多くの遺伝子座を開発する予定である。雑種判定に使える遺伝子座が増えれば、戻し交雑など雑種の内訳について更に詳細な推定が可能になる。最終的には雑種判定に有効で実験効率の良い遺伝子座の組み合わせを開発して、本年度以上に効率よく精度の高い雑種判定が行なえるように計画している。 同時に、雑種と判定された個体の処置について文化庁や関連する自治体等と緊密に連絡をとって対応策を講じる必要がある。なぜなら本年度調査された水系において、捕獲された個体のほとんどは雑種と判定され、一時飼育施設の収容数を超える勢いで雑種が収容されているからである。日本産、中国産ともに種の保存法に該当するため、管轄部局である環境省とも連絡をとり、雑種の取り扱いについても検討して行く必要がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
学会における成果公表のための旅費は本年度とほぼ同様である。また、物品や消耗品の多くはマイクロサテライトの実験に必要なものであり、本年度の使用結果から、あらかじめ必要量の分かるものなどは多めにまとめて発注することで安く購入したり、工夫して有効に経費を使用する予定である。 また調査用具(特殊な大型タモ、防水懐中電灯、ウエットスーツなどの河川調査用具一式)は年間を通じた調査で破損して長くは使えない。必要に応じて随時新調して行く予定である。夜間調査では防水懐中電灯やヘッドライトなどの照明装置が必要なので、それらに用いる乾電池等の消耗品も年間を通じて必要になる。調査には多くの道具の運搬が必要であり、また捕獲されるオオサンショウウオは多くは全長1mを超えるために車が不可欠である。可能な限り研究代表者の所属先の公用車を用いるが、使えない場合はレンタカーも必要になる。また公用車を使用できた場合でもガソリン代は必要になる。 謝金は、野外調査や実験補助に関して支払われる。特に次年度は、本年度に得られた多くのサンプルの解析依頼をするだけでなく、新たに多くのマイクロサテライトの開発に取り組む予定なので、実験補助の時間数も増え謝金額の占める割合が大きくなる可能性が高い。 その他については、公表する論文の英文校正料金や別刷代金が多くを占める予定である。次年度は少なくとも今年度と同様額は支出されると見込んでいる。
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