研究課題/領域番号 |
23510296
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
広瀬 裕一 琉球大学, 理学部, 教授 (30241772)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 光共生 / ホヤ / 海綿 / 垂直伝播 / 外来種 / サンゴ礁 / 国際情報交流(台湾、スペイン、米国、イスラエル) |
研究概要 |
藻類共生性ホヤの分布-1:台湾南部において台湾で未報告のDiplosoma1種を採集し、共生性Diplosomaの検索表とともにCollection & Research誌に発表した。 同-2:パナマのカリブ海側でDiplosoma simile を採集した。本種は琉球列島を含む太平洋域に広く分布し、小笠原や仏領ポリネシアなど海洋島にも見られる。分散力が高いと示唆され、最近大西洋側に侵入した可能性がある。本邦でも水温上昇に伴う分布域の拡大が懸念される種であろう。 共生藻伝播機構:プロクロロンと共生するホヤでは親から共生藻を獲得する「垂直伝播」を行うことが知られている。今回、非プロクロロン藍藻が被嚢内に共生するTrididemnum clinidesとT. nubilumについて、伝播のプロセスを明らかにした。基本的には被嚢内にプロクロロンが分布するT. miniatumと同様のプロセスで、伝播様式は藍藻の種よりも分布様式に依存して多様化しているらしい。 藻類共生性ホヤの分類形質:ジデムニ科では属・種の分類形質に、有性生殖期にしか得られないものがあり、時期によらず利用できる分類形質が求められる。各鰓孔列の鰓孔数パターンに注目し、4種について形質の安定性を検討した。鰓孔パターンが一定の種と変異のある種があった。 造礁サンゴを被覆する海綿・ヒドロ虫:緑島(台湾)のTerpios hoshinotaより放出された中実幼生の形態観察を担当した。幼生表皮は繊毛を密生し、中実な内部は海綿の細胞と藍藻がつまっており、藍藻は親から獲得したと考えられるが、伝播のプロセスはわかっていない。幼生は沈降性で1日以内に変態するため、長距離分散には寄与しないと考えられる。造礁サンゴ上のヒドロ虫 Zancea属(スズフリクラゲ)の1種について、未記載種を発見し新種記載を行った。JMBA誌にて印刷中。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
藻類共生性ホヤについては、予定通り分布調査を進め、分布情報の充実が図られている。また、スミソニアン熱帯生物研究所のサマーコースに講師として参加した際に、大西洋側の藻類共生性ホヤが採集されたのは、予定以上の進展である。同時に、海外の研究者と交流を深める機会となり、本研究課題に関連する研究でも協力できることとなった。また、非プロクロロン藍藻が被嚢内に共生するTrididemnum clinidesとT. nubilumについて、垂直伝播のプロセスを解明し、Biological Bulletin誌において発表した(Kojima and Hirose, 2012)ことで、藻類共生性ホヤについてはほぼすべての垂直伝播様式を網羅できたこととなり、共生システムの進化・多様化について重要な議論が可能となった。分類形質については一定の結果が得られてはいるが、実用性の点ではまだ今後の研究の蓄積が必要である。群体生長量のモニタリングを開始しているが、まだ試行の段階である。 藻類共生性の海綿について、幼生の入手が当面の大きなハードルであったが、台湾の研究者がフィールド研究の過程で幼生放出を確認し、その一部が提供されたため、幼生の実在と共生藍藻の垂直伝播があることなどを明らかにすることができた。より詳細な伝播プロセスを明らかにしてゆきたいと考えているが、初年度の成果としては大きな進展である。 以上の様に、予定以上に進展した課題と、遅れのある課題があるが、総合的には順調な進展であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
藻類共生性ホヤの分布について:分散力も高いと考えられることから、広域分布種に注目し、同種内の遺伝的変異や共生藍藻(特にプロクロロン)の系統地理学的な解析を進める。このため、採集調査については海洋島を重視して計画してゆく。海外の研究者から、大西洋・地中海の試料や情報も得られる見込みがあり、熱帯・亜熱帯の全周にわたる情報に基づいた解析が実現できる可能性がでてきている。これに関連して、分類学的に再検討を要する種もあらわれてきており、DNA barcodeと形態の両面から検討を進める予定である(紅海産 Diplosoma sp. cf. modestum など)。また、分布北限が琉球列島内にあると考えられる種は、今後、海水温の上昇など環境変化の指標になり得ることから、暫定の分布北限を見極めるためにも分布調査を進めてゆく。試行段階である生長量のモニタリングや流れ藻の調査は、今後も継続して方法の検討を進める。 藍藻共生性海綿Terpios hoshinotaについては、今後も幼生や胚を持った試料が得られれば形態学的な解析を進めたい。これは、フィールドで幼生放出を確認している台湾の個体群を扱うことが現実的であろう。また、本種は環境の変化によって糸状や球状の断片に形を大きく変化させ、これが分散に寄与している可能性があるため、球状断片の形態解析などを行ってゆく。また、夏期と冬期で海綿の厚さなどに差異があることから、季節による「質的な差」について、細菌相や二次代謝産物に注目した解析を外部に依頼することを検討している。
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次年度の研究費の使用計画 |
広域分布種に注目して、分子系統学的な解析を進めるため、海洋島の採集調査を行う。具体的には5月に母島(小笠原諸島)を中心とした調査を行う予定である。また、分子系統解析を進める上で、各種試薬消耗品を必要とする。琉球列島での分布調査も継続して進めるため、これについても採集旅費を必要とする。 Terpios hoshinotaについては、沖縄島以外での試料も検討したい。上記の分布調査と合わせて採集できると考えている。また、胚・幼生試料を得るために、台湾への出張も検討したい。 H23年度に顕微鏡用デジタルカメラを購入したことで、形態情報の取得について環境が整ってきた。周辺環境をさらに整備するために、外部モニタなど周辺機器およびソフトウェアの更新を検討する。
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