研究課題/領域番号 |
23510296
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
広瀬 裕一 琉球大学, 理学部, 教授 (30241772)
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キーワード | 光共生 / ホヤ / 海綿 / 垂直伝播 / 外来種 / 国際情報交換(台湾、スペイン、イスラエル、米国) |
研究概要 |
藻類共生性ホヤの分布: 昨年度パナマのカリブ海側で採集したDiplosoma simileについてCOIの部分配列による分子系統解析を行い、形態と分子の両方から種同定を行なった。同様に共生藻についても16SrRNA遺伝子の分子系統解析を行った。太平洋産のものとの関係を行い、本成果はSystematics and Biodiversity 誌に発表した。また、海洋島における藻類共生性ホヤの分布を把握するため、小笠原(父島、母島)、ハワイ(オアフ島カネオヘ)、南大東島で採集調査を行った。Diplosoma simileは上記全ての採集地で、Trididemnum cyclopsは小笠原と南大東島で採集されており、両種は高い分散力を備えると考えられる。渡名喜島において藻類共生性ホヤの採集調査を行なった。分布記録は沖縄生物学会誌にて印刷中。本調査で海綿Terpios hoshinotaの分布も確認された。 分類形質の整備 1: 藻類共生性ホヤの分類形質として鰓孔数パターンに注目し、その安定性について検討した成果をZootaxa誌に発表した。 藻類共生性ホヤのDidemnum molleには群体の色や形で区別される5タイプが確認されている。5タイプはCOIの部分配列では概ね区別されるが、個虫の形態では区別ができず現時点では1種とされている。本種に寄生するカイアシ類に注目しタイプ間での際に注目して調査を進めている。 生長量の検証:Lissoclinum timorense群体の成長/退縮について、定点定量調査を大度海岸の礁池で毎月実施している。これまでに夏期の急速な成長と、秋~冬期の退縮が確認されている。 流れ藻と分散:10月から沖縄島東岸の漁港で流れ藻の毎月採集を行い付着する藻類共生性ホヤの有無を調査している。Trididemnum cyclopsが10 ・11月に確認されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
藻類共生性ホヤの分布については、海洋島(ハワイ・小笠原・大東島)を中心に分布調査を進めた。海洋島で採集される種数は少ないが、分散力の高い種だけが海洋島に分散して定着していると考えられるため、高い分散力を備える種を想定する上で有意義な情報が得られたと言える。特に広域分布が確認されているDiplosoma simileについては分子系統解析も進めている。 分類形質については、新たな視点として、寄生性カイアシ類の宿主選択から、宿主ホヤの種分類を検討する取組みをはじめている。 群体生長量のモニタリングについては試行錯誤を経ながら2年近くのデータが蓄積されている。年による変動もなども見られるため、もう1シーズンの調査を継続する予定である。 流れ藻上の藻類共生性ホヤについても調査を開始し、これに父島・母島・南大東島で記録されている種 (Trididemnum cyclops) が付着していることがわかった。季節変動なども考慮した議論ができるよう、調査を継続する予定である。 藍藻共生性海綿Terpios hoshinotaについては、幼生や胚を持った試料が得られなかったが、来年度に緑島(台湾)で採集を行う予定である。 初年度にスタートできていなかった課題についても、順次調査を開始して成果が得られつつあり、本研究課題の期間内で一定の成果が得られるものと期待されることから、順調な進展であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
カリブ海や太平洋の海洋島にも広く分布が確認されているDiplosoma simileに注目して、形態と分子の情報から種の変異や遺伝的なつながりについて研究を進める。また、この研究成果については7月に開催の 7th International Tunicate Meeting(Napoli)で発表を行う。また、本種については、インド洋域の情報が少ないが、紅海のDiplosoma sp. cf. modestum が本種と近縁または同種と考えられる事から、イスラエルの研究者と協力して研究を進める。 生長量のモニタリングと流れ藻の調査を継続し、群体の出現・成長の季節変動と有性生殖期との関連について検討し、報告に取りまとめる。 藍藻共生性海綿Terpios hoshinotaの幼生分散と共生藍藻の伝播・保持については、緑島(台湾)でフィールドにおける幼生放出が確認されている事から、台湾の研究者と協力して海綿と幼生の採集を行う。得られた試料は、現地で固定して持ち帰り、組織学的・微細構造学的検討を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
水中撮影用のデジタルカメラ一式を更新する(現有品故障のため)。 組織学的・微細構造学的検討や分子系統解析を進める上で各種試薬消耗品を必要とする。 Terpios hoshinotaの幼生採集を目的に、台湾への採集調査旅費として使用する。 藻類共生性ホヤの分布調査とチャツボボヤの採集を目的に、過去に採集の記録がある宮古島での調査を検討する。 国内学会(日本動物学会)、国際会議(International Tunicate Meeting) での成果発表を行なうための学会出張旅費として使用する。 形態情報のデジタルデータ取得のための環境整備と関連ソフトウェアの更新を行なう。生長量のデータ解析に必要なソフトウェアの更新も検討する。
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