研究概要 |
マウス精子を室温保存できれば、凍結保存に比べ、保存スペースが少なくて済み、液体窒素を補充する必要もない。また、停電時も保存可能であり、輸送も容易である。本研究では、マウス精子の最適な室温保存法を開発するために、トレハロース(Tr)、緑茶由来ポリフェノール(エピカテキン:EC)及びアスコルビン酸(Asc)を含むTris-EGTA緩衝液(TE)を保存液として種々の条件下でマウス精子の室温保存を行った。まず、1.5mlマイクロチューブ内及びスライドグラス上にて真空乾燥させた後、真空のデシケーター内にて1週間室温保存した。また、一部のマイクロチューブは、1年以上室温保存した。保存後、復水した精子は、顕微授精(ICSI)にて未受精卵に顕微注入された後、受精能及び胚盤胞までの発生能を確認した。また、1年以上室温保存した精子について、ICSI後に得られた受精卵を卵管移植し、産仔の作出を試みた。 マイクロチューブで保存した場合の胚盤胞への発生率は、1M Tr+100μM EC+Asc/TE, 1M Tr/TE, 100μM EC+Asc/TE及びTEで各々30%, 34%, 15%及び10%であった。また、スライドグラス上で保存した場合では、各々26%, 21%, 0.5%及び0%であった。これらの結果より、Trの室温保存における有効性が示された。なお、ICSI後の受精率及び2-細胞期への発生率は、各保存液及び保存容器による差は認められなかったことから、精子頭部に存在する卵子活性化因子は、各保存液での乾燥・保存でも変性することなく、精子頭部に存在することが示唆された。一方、1M Tr+EC+Asc/TE液にてマイクロチューブ内で長期室温保存(446日)した精子で、ICSI後、移植したところ正常な産仔が得られた。このことから、Trを含む保存液での長期室温保存の可能性が初めて示された。
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