魚食性鳥類であるカワウは、集団繁殖を行う森林で樹木を衰退、枯死させるため、近年の個体数増加に伴い問題が生じている。カワウによる森林衰退が深刻な地域での森林の回復と再生を促進するため、大規模なカワウの集団繁殖地(コロニー)でありながら、森林植生が維持され大きな問題が生じてこなかった地域において、かつて肥料としての糞採取のために行われていた森林保全管理技術の効果を、地理情報システム(GIS)の活用、現植生の調査、そして野外での実験から明らかにした。 愛知県知多郡美浜町にある「鵜の山」を調査地とし、空中写真判読、既存資料調査、糞採取経験者への聞き取り調査などによって得られた情報から、かつてのカワウコロニーの範囲とその移動、糞採取を行っていた時期と範囲、現在までの植生遷移などについて精査し、地図化を行った。この結果と現在の植生とを比較したところ、タブノキ、エノキ、クロガネモチは営巣域、コナラとヤマモモは非営巣域で個体数が有意に高かった。1960年代後半のクロマツ植栽域では、タブノキ個体数が有意に多く、クロマツ植栽がタブノキ林への遷移に有効にはたらいたことが示唆された。 糞採取当時の優占種であるクロマツをポットに植えてコロニーに設置し、かつての糞採取と同様の頻度と手法で処理を行ったところ、排泄物をしみ込ませるための砂撒きを行うがそれらの採取は行わないという実験区で、生存率と樹高成長率が高いという結果が得られた。このことから、カワウコロニーでは砂撒きという人為作用がクロマツの生存や樹高成長を促進した可能性が示唆された。 本研究の結果は、伝統的な糞採取技術の一部である砂撒きとクロマツ植栽という人為的作用が、森林植生の回復と再生に効果をもたらす可能性を示唆したものといえる。
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