研究課題/領域番号 |
23510305
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ナショナル・アイデンティティ / 地方アイデンティティ / 日本 / ロシア / 北方領土問題 |
研究概要 |
当該研究の目的は北方領土問題を通じて、ナショナル・アイデンティティと地方レベルのアイデンティティの相互作用と対立の分析である。尚、本研究においては、アイデンティティを他者に対する一定の集団の自己認識の構築という役割を果たしている言説として定義する。23年度の目的は先行研究の整理と新たな分析枠組みの構築であった。前者を達成するために、著者はソ連・ロシアと日本のナショナル・アイデンティティに関する国際関係論、地域研究、社会学及びカルチュラル・スタディーズの分析枠組みを用いた文献を集め、これらの主張の整理を行った。後者を達成するために、著者は国内外に刊行されたナショナル・アイデンティティと地方アイデンティティに関する理論的な先行研究を収集し、自らの分析枠組みを作成した。作成の過程にあたっては、ナショナル及び地方のレベルにおいて複数の言説が同時に存在し、これらの全ての分析は不可能であるので代表的な言説に焦点を絞らざるをえないということを分かった。故に、代表的な主体として領土問題に関連する市民団体を代表的な主体とし、これらの団体が発信する言説を分析対象にした。この分析枠組みの応用性を試すために、日本の北方領土及び韓国の竹島(独島)関連の全国レベルと地方レベルの団体を対象にし、比較分析を行った。この研究の成果を国際地理学学会及びナショナリズム研究学会にて発表し、多くの重要な指摘を貰った。この事例の一部を学術誌に投稿し、現在において、査読の結果を待っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度の目的はロシアと日本のナショナル・アイデンティティに関する先行研究の整理と分析枠組みの構築であった。23年度の研究活動の結果として前者は十分に達成でき、後者においては、草案のような分析枠組みの構築に成功したが、学会にて発表した際に、いくつかの重要な批判的な指摘を貰ったので、24年度においてはこれらを反映し,改正を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
1)冷戦後の根室の地域アイデンティティと北方領土23年度の研究成果を踏まえ、冷戦終結の根室の地方アイデンティティと北方領土問題に関する分析を行う。そのために、刊行物(新聞記事、根室市及び現地の団体が発行した資料)の収集と聞き取り調査を実施する。聞き取り調査の対象としては、1)根室市の北方領土対策課、国際交流安全対策協会、 根室市日ロ友好親善協会、根室市北方領土返還要求推進協議会 2)千島連盟根室支部と青年部、根室漁協、歯舞魚協 3)一般市民に対しては性別、世代別の比率を考慮した上で80名程度に対して、アンケート調査を行う。調査の結果を整理するためにリサーチ・アシスタントとして雇い、調査結果を分析する。2)冷戦後の北方領土住民の地域アイデンティティ分析対処となる書類は二つに分けられる。一つは現地当局が発行した刊行物を集め分析を行う。だが、ここではアンケート調査の結果は分析の主たる材料となる。歯舞諸島は基本的に無人であるために調査対象としては国後、択捉と色丹の住民にする。役場の職員、学校の教員と魚介類缶詰工場の経営者に加えて一般市民にアンケート調査を行う。まず、サハリン州の統計局にある対象地域の人口に関するデータを集め、性別、年代別の比率を考慮した上で各島の約30人に対してアンケート調査を行う。調査方法としては、1)ビザなし交流を担当している北方領土問題対策協会及びその実施に関わっている北海道道立北方四島交流センターの協力を得て、ロシア住民の来日の際に調査の一部を行う。2)応募者はロシア国籍を有しているので、該当地域に渡りアンケート調査を実施する。調査の結果を整理するためにリサーチ・アシスタントとして雇い、調査結果を分析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
東日本大震災の影響で、業務上の障害が生じ、当該研究事業の円滑な実行は不可能となり、23年度の予算の一部が未使用となった。23年度に実行できなかった計画の一部、とりわけ領土問題と市民社会という問題を取り扱う国際的な権威を有している専門家の知識の取得を24年度に実施する。1)日本及びロシアにての調査(旅費、調査費、謝金)2)日本語、ロシア語と英語での一次資料と二次資料の購入(物品費)3)研究成果の発表(旅費)4)領土問題と市民社会の専門家による知識提供(謝金)なお、F-6-1(収支状況報告書)記載の次年度使用額のうち、354,933円は24年3-4月の学会参加のための旅費として支出が確定している。
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