本研究は、戦後の脱植民地化過程における台湾家族の社会変化への対応について、文化資本をめぐる「家族戦略」の観点から考察を加えるものである。そのために、戦前における日本教育の学歴保有者および非保有者の家庭に対する聞き取りをそれぞれ実施した。 1.聞き取り調査の成果:平成23年度は4、9、12月、計3回の現地調査を行い、計6名を対象にインテンシブな聞き取り調査を実施し、平成24年度は、4、7、10、12月の4回にわたり計14名、平成25年度は、8、10月の2回、計4名に対して補充調査を行い、延べ24名のライフ・ヒストリーのデータベース化を完成した。 2.研究の成果:以上のデータベースに基づき、戦後の脱植民地化過程における社会変化への対応について、戦前の日本教育を経由し獲得された文化資本の有無により、二つの類型の家族に分かれることが実証できた。その特徴は第一に、日本教育歴を保有する台湾人家族は、戦後において日本以外にもアメリカ留学にまで展開していったのに対し、日本教育歴を保有しない家族は、戦後国民政府による義務教育を最大限に利用した。第二に、職業において前者は文化資本の継承、更新により中流以上の社会地位を維持できたのに対し、後者は新たに学歴を獲得できた場合は、教員、公務員を含む公的部門への進出が普遍的に見られ、学歴の獲得に失敗した場合は、都市への流入が顕著となった。第三に、両者の歴史的記憶は、例えば日本時代および戦後に関する語りと評価においても一定の差異が見られる。 3.最終年度である平成25年度の研究成果:(1)聞き取り調査およびデータベース化、(2)結論の提示、(3)学会および社会への発信が挙げられる。特に(3)について、日本国内では学習院女子大学から招聘講演を受けたほか、台湾の清華大学からも二回の招聘講演を受け、本研究課題の成果を海外にも発信することができた。また、英文論文1本、和文論文1本を発表した。
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