研究課題/領域番号 |
23510311
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小島 敬裕 京都大学, 地域研究統合情報センター, 研究員 (10586382)
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キーワード | 上座仏教 / 宗教政策 / 宗教実践 / ミャンマー / 在家信徒 |
研究概要 |
今年度は、ミャンマーへ2度にわたって渡航し、ヤンゴン、カチン州モーフニン、マンダレー管区マンダレー、メイッティーラ、モン州タンビュザヤッ、シャン州タウンジーにおいて調査を実施した。 まずヤンゴンにおいて、また宗教省では、ミャンマー・サンガの現状に関する統計資料などについて情報収集した他、政策の実施細目に関する資料を収集した。特に最新の統計資料の数値は研究資料としていまだ用いられていない重要な資料であり、今後の研究論文等で公開していく予定である。 次に、ミャンマーの各地域において、地域に根ざす実践に関する調査を実施した。まずカチン州モーフニンでは、シャン族を中心とするゾーティー派の見習僧得度式を調査した。これは3年に一度のみ実施されるものであり、教派独自の形態を維持していることが明らかになった。またメイッティーラ北部の農村で行われたビルマ族の見習僧出家式との比較から、民族の異なる両者は共通性を持ちつつも、儀礼の式次第その他に関してかなりの相違が見られることがわかった。 また、仏教儀礼において重要な役割を果たす在家の儀礼専門家ホールーに関する調査を行った。申請者は、こうした儀礼専門家ホールーの存在を、ミャンマー・中国国境の瑞麗市やシャン州北部で確認してきたが、他地域では民族史的データが報告されてこなかった。しかしミャンマー各地で広域調査を行った結果、周辺部のモン族、パオ族、カレン族などの少数民族の間に同様の実践が見らればかりでなく、中央部のビルマ族の間でも近年まで同様の在家専門家が存在したことが明らかになった。こうした在家の仏典朗誦専門家が地域の仏教実践において重要な役割を果たしている事実は、上座仏教徒社会に関する先行研究では指摘されてこなかった事実であり、従来の研究における出家者中心の見方に再検討を迫るものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の調査により、地域の仏教実践に関するフィールドワークは、当初の計画をほぼ完了することができた他、モン州でも在家の儀礼専門家の実践に関する調査を実施した。 現代ミャンマーにおける宗教政策については、テインセイン新政権の宗教政策に関連する聴き取りならびに資料収集をおもにヤンゴンにおいて試みたが、具体的な新政策は現段階では成立しておらず、2014年5月の全教派合同サンガ大会議において変更される可能性あることが判明したため、研究計画の一部は達成されていない。
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今後の研究の推進方策 |
ミャンマーの新宗教政策を具体的に明らかにすることは、本研究の最重要課題の一つであるため、研究計画を1年間延長し、2014年5月の全教派サンガ大会議の開催後に宗教省その他の関係省庁にて、関係資料の収集を行う。また宗教省関係者や国家サンガ大長老委員の長老に対し、制度変更の経緯や意図に関する聴き取り調査を行う。さらにミャンマー各地の寺院を訪れ、具体的な資料の収集や地域における実態の聴き取り調査を実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度までに、おもにミャンマーのシャン州やカチン州において、地域に根ざしたローカルな仏教実践と宗教政策の関係についての調査を実施した。また最大都市ヤンゴンや首都ネーピードーにおいて、テインセイン新政権発足以降の宗教政策に関する調査を実施した。しかしながら、新政権の宗教政策は2014年5月に開催される全教派合同サンガ大会議で決定されるとの情報が得られたため、期間を延長して調査を継続することが望ましいと判断した。 次年度は、おもにテインセイン新政権の宗教政策の動向を実証的に把握することに尽力する。具体的には、ヤンゴンの宗教省書店に赴き、新政権の仏教関係諸政策に関する文献資料の収集を継続する。また宗教省関係者にインタビューを実施し、新政権の意図や、今後の具体的な展開に関する情報を収集する。さらに可能であれば、新政権が宗教政策の現場においてどのように運用されているのかについての実態調査を行う。
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