研究課題/領域番号 |
23510312
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤川 隆男 大阪大学, 文学研究科, 教授 (70199305)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | オーストラリア史 / 博物館 / ナショナリズム / 歴史教科書 / 歴史戦争 / 国際研究者交流 / オーストラリア |
研究概要 |
平成23年度は、(1)南オーストラリアにおける博物館の調査(2)首都キャンベラにおける文献調査(3)研究協力者、N・ブラウンとの打ち合わせ(4)翻訳を行う歴史教科書の選定を実行する計画を立て、(2)と(3)について順調に達成したが、(1)については科研費の支出を70%に抑えるようにとの指示があり、夏季休暇中の調査を断念した結果、予定した調査を行えなかった。また、(4)についても、人口の大部分を占めるNSWとヴィクトリア両州が歴史教育の必修化を2年間延期したので、選定作業はあまり進展しなかった。南オーストラリアにおける調査を実施できなかったことを補うために、成果の報告を活字化することで、他の項目に関して研究を計画以上に前進させる方針を立てた。すなわち(2)に関して、キャンベラで収集した、新しい歴史カリキュラムと関連する会議、新しい歴史教科書などに関連する文献を利用して、歴史教育の変化に関する論文を執筆した。それを、国立民族学博物館の共同研究「オーストラリア多文化主義の過去・現在・未来―共生から競生へ」の最終報告書に収める予定の論文として、2012年2月末日に座長の関根政美に、「歴史戦争の後に―オーストラリアにおける歴史教育の統一的・全国的導入」として提出した(1年程度で出版の予定)。そこでは、「歴史戦争」と呼ばれる政治的・党派的な激しい論争を簡単に説明し、それがどのように解釈されてきたかを示した。さらに、このような歴史とナショナル・アイデンティティをめぐる激しい対立にもかかわらず(あるいはその背後で)進行してきた、党派を超越した科目としての「歴史」教育の全国的導入に注目することで、オーストラリアという国民国家の「再」統合に向けたプロセスに光を当てた。この論文の意義は、研究目的の一つ、従来は指摘されてこなかった社会の歴史化が、歴史教育で超党派的に進んでいることを示した点にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、すでに述べたように(1)南オーストラリアにおける博物館の調査(2)首都キャンベラにおける文献調査(3)研究協力者、ニコラス・ブラウンとの打ち合わせ(4)翻訳を行う歴史教科書の選定の四つのうち、(2)と(3)について順調に達成したが、(1)については、夏季休暇中の調査を断念し、(4)についても、選定作業の進展は十分ではなかった。現地調査という点からは、やや遅れているとするのが妥当である。しかし、現地との打ち合わせは想像以上に順調に進み、平成25年度に日本で開催する予定のセミナーへの協力を取り付けた。また、研究目的から考えると、歴史戦争の背後で進行する「社会の歴史化」に関して、歴史教育という分野に関して論文を執筆できたことは、大きな前進であったと思われる。さらに、平成24年度後半は、サバティカルを取得するので、海外調査が容易に実行できるようになっていることも考慮すると、おおむね研究は順調に進展していると言えよう。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、年度後半にサバティカルを取得するので、昨年度できなかった南オーストラリアでの調査に加えて、西オーストラリアでの調査や現地の関係者との交流の拡大など、当初の計画以上に積極的に研究活動を行う予定である。以下が平成24年度の研究計画である。(1)昨年度実施できなかった南オーストラリアにおける歴史博物館等の調査を行う。とりわけ歴史的鉱山町について調査する。(2)予備調査を行ったクィーンズランドのStockmans Hall of Fameと、Australian Workers Heritage Centreに対してイン・デプス・スタディを実施する。(3)歴史のカリキュラム改革に関する関係者のインタビューを実施する。(4)西オーストラリアで開かれれる歴史教育学会に参加し、歴史の教員と接触し、新しい歴史教科書に関する情報を収集する。(5)西オーストラリアにおける博物館等の調査を行う。(6)「社会の歴史化」の特徴を、歴史教育の変化、地方都市の歴史博物館と施設 歴史に関するスポーツや文化的行事という研究対象を媒介にまとめ、現在のナショナル・アイデンティティやナショナリズムとの連関の構図を提示する。(7)ウエブ上のオーストラリア辞典及び年表のソフトウェアを更新する。平成25年度については、当初の予定を踏襲し、以下の項目を実施する予定である。(8)オーストラリア学会での報告または論文として成果の公表を行う。(9)オーストラリア人研究者を招いたセミナーを実施し、内外の研究者からの批判を受け、研究計画を再点検する。(10)新しい歴史教科書の普及は、時間的に不確定要素が多いので、3年目に確認調査を実施する。(11)新しい歴史教科書の翻訳を進め、それを出版する目処をつける。(12)最終報告書をとりまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に残額が生じた第1の理由は、科研費の使用制限が行われ、南オーストラリアでの夏休み期間中の調査を実施できなかったことにある。また、オーストラリアにおける歴史教育の必修化の遅れのために、収集する予定であった文献資料を購入できなかった点も副次的な原因である。平成24年度は、サバティカルを取得し、エフォート率を大幅に高めることが可能であるので、平成23年度の残額を旅費などとして用いて、以下で示した(1)及び、新たに立ち上げた計画である(4)や(5)の西オーストラリアにおける学会参加や調査の費用として使用する。また、平成24年度の旅費によって、オーストラリアに一定期間にわたって滞在し、(2)のクィーンズランドにおける調査、(3)のインタビューなどを効率的に実施する。また、オーストラリア滞在中に(6)に必要な文献の購入を行う。その他には、(7)の更新を担当する技術者に謝金を支払う。上に示した番号の詳しい内容は以下の通りである。(1)昨年度実施できなかった南オーストラリアにおける歴史博物館等の調査を行う。(2)予備調査を行ったクィーンズランドのStockmans Hall of Fameと、Australian Workers Heritage Centreに対してイン・デプス・スタディを実施する。(3)歴史のカリキュラム改革に関する関係者のインタビューを実施する。(4)西オーストラリアで開かれれる歴史教育学会に参加する。(5)西オーストラリアにおける博物館等の調査を行う。(6)「社会の歴史化」の特徴を、歴史教育の変化、地方都市の歴史博物館と施設 歴史に関するスポーツや文化的行事という研究対象を媒介にまとめ、現在のナショナル・アイデンティティやナショナリズムとの連関の構図を提示する。(7)ウエブ上のオーストラリア辞典及び年表のソフトウェアを更新する。
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