本研究は4年次にわたっており、初年度にはヴァヌアツの首都ポートヴィラ、次年度には同国の地方都市のルガンヴィルを対象にフィールドワークを実施した。第三年次、つまり昨年度には、都市と村落の回廊を明らかにするべく、ペンテコスト島北部出身者を対象に、ポートヴィラとペンテコスト島両者の調査を行った。その結果、村落と都市を結びつける回廊を通して首都に形成される新たな共同体のあり方が浮かび上がったが、本年度は、それをさらに確証するため、今度は再度ルガンヴィルに赴き、ペンテコスト島との回廊によって生み出される新たな共同体のあり様を探りだした。その結果見いだされたことは、南太平洋の都市は、村落と都市の二分法を乗り越えた「ゲマインシャフト都市」と名づけることが出来るような性質を持っており、そこにおける共同体のあり方も、従来の社会科学的な共同体論では捉えきれないような性質を持っているということであった。 そもそも、社会科学における共同体議論は、村落と都市の二分法にもとづいたものであった。村落においては、伝統的な閉じた共同体=村落共同体が存在し、都市が出現することによって、近代の原理に従った開かれた共同体=公共圏が現われると想定されていた。しかし、南太平洋のゲマインシャフト都市においては、こうした二分法が適用できず、伝統と近代が共存する空間が生み出されているため、伝統的な村落共同体が必ずしも閉じられておらず、近代的な原理による公共圏が必ずしも完全に開かれているわけでもないという状況を想定することで、はじめて了解できるような「もう一つ別の共同体」が出現することになる。そこでは、互いに異質なものが異質なまま存在することが許されるヘテロトピー状況と、近代的な都市としてのイゾトピー状況が共存する新しい共同体が見出されるといえる。
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