研究課題/領域番号 |
23510317
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研究機関 | 島根県立大学 |
研究代表者 |
坂部 晶子 島根県立大学, 総合政策学部, 准教授 (60433372)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 / 中国 / 東北少数民族 / オロチョン族 / 民族イベント / 生活変容 |
研究概要 |
本研究の目的は、中国北方少数民族の生活世界の変容を、彼ら自身の集合的・個人的記憶の語りをとおして再構成し、中国東北社会の歴史を多元的現実として記述し考察することにある。この目的にそって今年度行った調査・研究の概要は以下のとおりである。 本研究課題を遂行するにあたってまず重要なのは、中国東北地域の各地の少数民族居住地にたいしてネットワークをつけること、および現地におけるフィールドワークと資料収集である。そこでまず第一に、北京の中央民族大学、中国社会科学院の関連研究者の方々とのとあいだで研究状況に関する情報収集、およびフィールド先への調整をお願いしている研究者との打合せを行った。 第二に、内モンゴル自治区内オロチョン族自治旗においてインテンシブなフィールド調査を行った。本年2011年はオロチョン自治旗建旗60周年にあたり、オロチョンの民族的な祝祭である篝火節を含めたさまざまな記念祝賀行事が、9月3日の前後に準備、実施された。そこで、民族自治旗の政府所在地である阿里河鎮において、民族研究会の代表者および研究会メンバーへの聞きとり調査、さらに民族芸術の継承・保存を担当する団体でもある芸術団体「烏蘭牧騎」の主要なオロチョン族歌手、各民族の舞踊メンバーへのインタビュー、また猟民村の若者代表者や地域の古老への聞きとり調査などを行った。さらに体育館や劇場・少年宮等で練習を重ねていた各種のイベント準備と当日の式典にたいして、参与観察を行った。 第三に、戦前期、「満洲国」時代に行われた中国北方諸民族にたいする各種調査研究の資料収集を、日本国内の図書館において実施した。 これらの調査の成果は本年度の研究報告のなかに一部反映されている。さらに学会や各種研究会で研究報告を行い、中国北方少数民族の生活世界の変容についての記憶研究の分析枠組みについて検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由の一点目はフィールド調査の進捗状況にかかわる。本研究では、中国東北地域の三つの少数民族居住地における、それぞれの民族イベントへの参与観察やインタビュー調査をとおして、民族文化の伝承や関与のかたちについて調べることを大きな調査項目としている。その主要な対象であるオロチョン族の民族イベントの調査は、本来に年目に行う予定であったが、一年前倒しのかたちで完了した。そのため、本年度は他地域への調査が行えなかったが、今年度計画していた地域への調査を、来年度実施する予定である。調査地でのイベント開催の都合により、調査の順番が若干入れ替わっているが、調査自体はおおむね予定どおり進行している。 理由の二点目としては、フィールド調査のための連絡調整状況にかかわる問題である。いくつかのフィールドワーク調査地をもつ本研究では、調査先との連絡調整が不可欠であるが、これまで調整をお願いしていた機関に加えて、新たに呼倫貝爾民族歴史文化研究院(内モンゴル自治区ハイラル)の研究員とも連携がとれており、調整状況はかなり進展してきている。 これらの理由により、本研究における重点課題である現地調査はかなりスムーズに進行することが予想されるため、研究全体もおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
中国北方少数民族の生活世界の変容を、彼ら自身の集合的・個人的記憶の語りをとおして、その多元的現実の視点から再構成し記述分析していくことを目的とした本研究課題では、以下のように具体的な作業課題を設定している。 主要なフィールドは、内モンゴル自治区東部にあるオロチョン族自治旗、エヴェンキ族自治旗、ダウール族自治旗とし、それぞれの地域において、第一に、中国北方諸民族にかんする通時的な歴史・民族資料の収集を行う。第二に、各民族自治旗における民族イベントについてのフィールド調査をとおして、当該民族の現時点での主要な民族文化にたいする関与のかたちを明らかにし、彼らの集合的記憶の位相について分析する、第三に、それぞれの少数民族の古老を中心としたライフヒストリーの収集を行う。 上述の設定課題のうち、とくにオロチョン自治旗における民族イベントへの参与観察、および資料収集は順調に進展しており、今後は、引き続き他の地域についても同様の現地調査を進める予定である。エヴェンキ族の居住地については民族自治旗の他、根河市にあるオルグヤ猟民村への現地調査についても、内モンゴルのハイラルにある呼倫貝爾民族歴史文化研究院の研究員との連携が進んでおり、これらの機関をとおした連絡調整のうえで、現地調査を実施する予定である。 最終的には、これらの現地調査をとおして得られた民族資料およびフィールド・データを元に、それぞれの民族における集合的記憶、個別の記憶の位相と関連について分析し、検討する。これらの研究結果をまとめて、東北社会の歴史を多元的現実として描きだすことを試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)平成23年度の調査成果にもとづき、各フィールドの状況について資料・知見の整理分析を行う。また昨年度の調査にもとづいて書かれた報告原稿を中国語に翻訳して投稿する予定であり、その中国語校正用の費用として謝金を計上する。(→謝金・物品費・その他)(2)中国でのフィールド調査をトータルで4~5週間程度実施する。具体的には、(1)昨年度に引き続き、主として中国東北地域、内モンゴル自治区において、少数民族資料の収集を行う。さらに、(2)本年度にも民族イベントにかんする本調査を行う。とくにエヴェンキ族自治旗、ダウール族自治旗において、それぞれの地域で開催される民族的イベントにたいする参与観察を行い、また関係者への聞きとり調査を実施する。(3)それぞれの地域において、各自治旗内および周囲の集住地に住む古老にたいするライフヒストリーの聞きとり調査をすすめる。これらの調査に必要な費用を計上する。(→旅費・物品費・謝金・その他)(3)中国でのフィールド調査以外の期間は、昨年に引き続き日本での資料収集、および本年度の中国での聞きとり資料のデータ整理と分析をすすめる。とくに民族イベントにかんするフィールド資料の整理を行い、比較分析を行う。日本国内での資料調査旅費、また中国語のテープ起こし、資料整理のための謝金を計上する。(→旅費・物品費・謝金・その他)
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