本研究の目的は、中国北方少数民族の生活世界の変容を、彼ら自身の集合的・個人的記憶の語りをとおして再構成し、中国東北社会の歴史を多元的現実として描きだすことにある。この目的にそって今年度行った具体的調査・研究の概要は以下のとおりである。 第一に、中国の現地フィールドにおける資料収集である。地域の主要な地方誌はすでに入手しているが、過去の資料や個別の団体ごとの出版物など、収集資料の補完を行った。中国では全国的にすべての出版物が流通しているとはいいがたく、地域における民族関係文献は貴重な資料となる。 第二に、北方民族の一つ、エヴェンキ族の民族イベントの参与観察および生活状況と生活の変容にかんする聞きとり調査である。8月上旬に鄂温克民族自治旗の中心、南屯で行われた鄂温克民間芸術団による公演のリハーサルと公演当日の取材、さらにハイラルで行われた専門家集団による舞台公演の取材、またより小規模なボランティア集団である伊敏河芸術団、現代的に商業化されたモンゴル・バンドの取材等を行った。これらにより当地の民族文化・芸術の維持活用の多様なレベルの実態について解明することができる。さらにエヴェンキ族は自治旗内の各地に分散して小さなソム(村)をなして居住してきた。これら各地のソム(南屯・錫尼河東蘇木・輝蘇木・伊敏蘇木・陳巴爾虎旗鄂温克蘇木)を回り、現在の生活状況と生活変化について聞きとり調査を行った。 第三に、昨年度に引き続き、戦前、戦中の民族資料の収集を、日本国内の図書館において行った。さらに、これまでの調査データのテープ起こし、データ整理をとおして、中国北方少数民族の生活世界の変容について、多面的な角度から分析を進めた。これらの調査・研究の成果は下記の研究報告に一部反映されている。
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