研究課題/領域番号 |
23510326
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研究機関 | 清泉女子大学 |
研究代表者 |
真崎 克彦 清泉女子大学, 文学部, 准教授 (30365837)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 民主主義 / 公共性 / 王政 / 国民総幸福 / ブータン |
研究概要 |
議会制民主主義への移行を軸とした憲法発布から3年が経ち、初の政党選挙で政権の座に就いた与党は、全国各地で開発事業の実施を急いでいる。調査対象地のA村でもリゾート建設の計画が持ち上がっており、景観や牧草地が損なわれることを憂慮する人びとは反対している。近年ブータンでは若者の雇用問題が全国的に激化しており、その対策として進められている事業である。地域の暮らしと国総体の公共性の観点をどう折り合わせるのか、政府は難しい選択を迫られている。また平成23年6月には地方選挙が行われた。国政選挙とは違って政党参加は禁止されているが、A村の所在するB地区では、与党との結びつきを持った候補者が地区長に選ばれた。政権党が自らと関わりのある候補者を非公式に後押しする動きは止めようもなく、今後の地方政治では、政党の利害と地域の公共性の間の葛藤が一層問題になることが予想される。 ブータンではこのように「個人決定」と「公的決定」の両立が、民主化の進展とともに課題となっているが、A村やB地区の民衆の間では、国王が自分たちの意志をくみ取った政治運営を保証してくれるであろう、という期待が高まっている。実際に憲法上も、国王は至高の権力者と位置付けられており、この民主政のあり方は従来の政治理論の前提(=絶対君主に代わって国民が主権者となることで民主主義は成り立つ)とは逆を向いている。こうした独自性の背景には、仏教的な国家観(=国王は仏法を守りながら民衆を苦しみから救う菩薩のような存在であり、そうした慈悲深い支配者がいることがグッドガバナンス実現に欠かせない)が見て取れる。政治家の決定が幅を利かせるようになる中、大局的な公共利益が損なわれることのないよう、今後、国王が政治運営においてどのような役割を果たしていくのか、引き続き調べていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「個人決定」と「公的決定」の両立という民主主義の難題の克服がブータンではどのように追求されているのかが、上述の通り、初年度から明らかになりつつあり、「当初の計画以上に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2度目の選挙が平成25年度に予定されており、それまでは、A村・B地区において民主政下の初政権が人びとの生活にどのような変化をもたらし、次回の選挙ではどういう候補者を選びたいと考えているのか、人びとの意見を聴取することに力を入れたい。また選挙後には、人びとの意向が選挙結果にどの程度反映されたのか、また次期政権にどういう期待を抱いているのかについて調査を進める予定である。そしてゆくゆくは、ブータン独自の民主政が、西洋近代中心の民主主義観をどのように相対化し得るのか、あるいはどの程度までそれを再構築していく端緒になり得るのか、首都の知識層の人たちとも連携を取りながら考察していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
首都ティンプとA村・B地区を中心とした現地調査、ならびに民主主義やブータンの政治についての文献レビューを続ける。現地調査では平成23年度の調査結果のアップデートを主な目的として、国家運営の中枢にいる政治家や政府役人にインタビューを行い、A村・B地区では民主化の進展で人びとの暮らしがどう変わったのか、平成23年度の地区選挙の結果を人びとがどのように受け止めているのかを調査する。さらには、B地区の所在するC県の政府役人にも同趣旨のインタビューを行うことで、ブータンの民主化がもたらした成果と課題をより一層明らかにしていきたい。
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