ブータンでは国王や仏教が、「公共性」の観点に立った民主主義運営を促す役割を担う。こうした政治体制の意義と課題を検証することを目的として、本研究は行われた。世界各地では対照的に、民主主義は自由主義(社会的権威からの自由を称揚する考え方)と結びつけられがちであり、政治運営では「個人の自由」が先んじられやすい。その結果、社会の調和や自然環境に負の影響を与えかねない決定、つまり「公共性」に相容れない決定が下される余地が広まっている。こうした中、国王や仏教といった社会在来の権威に依拠しつつ「個人の自由」と「公共性」の折り合いを図るブータンの事例は、今日の民主主義のあり方に一石を投じ得る。
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