研究課題/領域番号 |
23510329
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研究機関 | 文化学園大学 |
研究代表者 |
糸林 誉史 文化学園大学, 服装学部, 准教授 (60301834)
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研究分担者 |
高田 知和 東京国際大学, 人間社会学部, 准教授 (70236230)
林 在圭 静岡文化芸術大学, 文化政策学部, 教授 (80318815)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 地域社会 / 民俗服飾 / 沖縄 / 韓国 / マレーシア / 文化政策 / 伝統的工芸品 |
研究概要 |
本研究は、沖縄・韓国・マレーシアの地域社会における、民俗服飾の近代化/復興の過程に纏わる文化の多層性と流用という問題を、(1)生活史・地域組織、(2)地方史・自治体史誌、(3)開発政策・文化政策の3つの局面と、その相関から、質的分析手法を活用して、整理・分析して描出し、民俗服飾研究の新展開を提示することを目的とする。具体的には、3分野の地域研究者が、共同調査を実施して、3つの局面と、その相関を、「フォークロリズム(民俗の二次活用)」とその「歴史的もつれあい」の視角から、「質的分析(QDA)ソフトウエア」を活用しながら記述・分析する。 本研究の意義は、日本の民俗服飾研究に学際的な地域研究アプローチと理論を導入することで活性化すること、高齢化の進む織物従事者の口述データや個人資料、自治体史誌には収録されない民俗服飾関係の団体資料などの質的分析と蓄積、地域研究分野に質的分析(QDA)ソフトウエアを導入するための基礎的条件の提示である。そのための調査および研究の準備段階として平成23年度は、予備調査と事前協議、QDAソフトウエアの試行を行った。実施の場所は、沖縄県読谷村および那覇市、忠清南道舒川郡韓山面の韓山と慶尚北道の大邱市である。読谷山花織事業協同組合、韓山モシ世界化事業団など、本調査にむけて協力機関の担当者や地元関係者との事前協議を実施した。ただマレーシアについては、現地の協力者が多忙のため都合がつかず、平成24年7月に予備調査と事前協議を行うことになった。また、質的分析ソフトウエア(ATLAS.ti)の試行については、予備調査のデータを利用して、各分担者がソフトウエアの利用について習熟することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々のグループは、2008年より共同研究を企画し、沖縄を中核として韓国、マレーシアにおいていったん消滅したもの、もしくは消滅に瀕した民俗服飾が、70年代から80年代の開発政策のなかで、「韓山モシ世界化事業団」や「マレーシア工芸開発公社(MHDC)」が主導して生産現場を組織化することで実現した「伝統的工芸品の復興」を、織物従事者や各生産組織への聞き書きや一次資料の発掘によって明らかにした。 本研究は、これまでの調査研究の成果を継承しつつ、分野横断的な知見を得るため「民俗の二次活用」に焦点をあてて体系化し、また地域横断的な手法を導入することで、新展開を目指すものである。平成23年度は、翌年からの本調査の実施に向けて、読谷山花織事業協同組合、韓山モシ世界化事業団、マレーシア工芸開発公社など調査の協力機関の担当者や地元関係者との事前協議が重要となる。研究実施に向けて2008年より機関の担当者や地元関係者との協力関係を築いてきたため予備段階の準備は十分に整ったと評価することができる。ただマレーシアについては、機関の担当者が予定時期の際に不在のため、予備調査および事前調査の実施時期を平成24年度に延期せざるを得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の独創的な点は、文化の多層性と流用の問題を「3つの局面」として対象化し、研究細目とその連関を追求する「地域横断的アプローチ」と、「近代/伝統といった対立構図」を批判的に捉えようとする「分析視角(フォークロリズム論と歴史的もつれあい)」や「調査研究手法(質的分析ソフトウエア)」の工夫による「分野横断的アプローチ」の2点にある。 平成24年度からは本調査の実施局面として、「生活史・地域組織」、「地方史・自治体史誌」、「開発政策・文化政策」の3つの研究細目の局面を各年度ごとに実施していくことで、民俗服飾の近代化/復興の過程に纏わる「文化の多層性と流用」という問題を明らかにする。 具体的には、予備調査を含め4年をかけて、3つの地域社会と民俗服飾を対象に、3つの局面と、その連関を、質的分析(QDA)ソフトウエア(ATLAS.ti)を活用しながら、概念・カテゴリーのネットワークから整理/分析することで、普通の人々の日常的なもののやりかたである文化の多層性と流用の問題を体系的に追求する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は本調査の実施局面(1)として「生活史・地域組織」の調査研究を計画している。ただし、マレーシアの予備調査については、機関の担当者が実施時期の際に不在のため、予備調査および事前調査の時期を平成24年度に延期せざるを得なかった。そのため次年度に担当者との日程を調整して実施する。1)生活史調査:織物従事者、復興事業関係者に対する聞き取り調査、口述データおよびライフドキュメンツ(日記、写真等)の収集…高田・糸林(沖縄)、林(韓国)、糸林(マレーシア)2)生産組織調査:事業協同組合・事業団・公社での聞き取り/資料調査…糸林・高田・林(共同) ⇒ 組合/団体事業の史的展開、組織運営、成員と役員構成、後継者養成制度、地域・分業構造3)コミュニティ調査: 字・地区レベルの個人・団体・社会史の聞き取り/資料調査…糸林・高田・林(共同)⇒ 地域工房と女性、織物業と企業家、祭礼と寿衣、結い組・婦人会・老人会活動4)《共同研究会(年3回)》:復興の過程で民俗服飾の知識や情報がいかなる経路で地域社会に波及したか、素材の転用や図案の折衷、隣接性や類似性による換喩/隠喩的な関係など、民俗伝統をどのように解釈して創出したか。各地域の各項目の調査結果を相互照合して、分析単位となるコードへの注釈付けを協働作業で行う。また進捗状況を確認し、次年度の調査内容と手順を再検討する。
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