過去3年間のバングラデシュの現地調査では、農村部の貧困層を対象としたマイクロファイナンスや、中小・零細企業の支援に特化したNGO・BRACが設立したBRAC銀行等、ボトムアップ型の金融機能が同国の経済発展と人々の自立的発展を支えていることを把握した。しかし、途上国の金融機能、役割を日本の地方部に直接的に当てはめることは、論理の飛躍となる可能性も否めないことから、最終年度は「ソーシャルバンク」として知られる欧州の代表的な2行、GLS銀行(独)、トリオドス銀行(独)へのインタビュー調査を行なった。 1974年に設立されたGLS銀行は主に福祉・教育関連事業や環境事業に対して、また1980年に設立されたオランダのトリオドス銀行は環境事業を中心に融資を行なっている。当初は草の根的に始まったこれらの取り組みは、今や多くの社会課題を抱える先進国においてメインストリームの経済にも大きな影響を与えている。 皮肉にも、社会制度が未発達な途上国での「金融機能を活用した“社会基盤構築型”の仕組みづくり」と、産業革命後の急速な経済発展により産み出されたエネルギーや環境問題等の新たな社会課題に対する「金融機能を活用した“社会基盤再構築型”の仕組みづくり」との間には共通点が多い。2009年には、途上国を含む国際的な連携機関としてThe Global Alliance for Banking on Values(GABV)が設立されたが、GLS銀行、トリオドス銀行とともにBRAC銀行もメンバーとなっている。 日本の地方部は社会資本が未整備な途上国と重ね合わせることも(本調査の仮説)、少子高齢化等に代表される先進国課題の先端地域として捉えることも(今回得られた新たな仮説)いずれも可能である。今後は本研究にGABVのアプローチも加え、金融機能を活用した社会基盤構築と再構築の仕組みづくりの研究を深化させていきたい。
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