研究課題/領域番号 |
23510341
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 由美子 東京大学, 社会科学研究所, 講師 (60571221)
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キーワード | ジェンダー / タンザニア / キリマンジャロ州 / 灌漑圃場整備 / 土地所有制度 / 水利組合 / 生計戦略 / 食料の安全保障 |
研究概要 |
1980年代に日本政府の援助により実施された国家主導の近代的圃場整備を伴う灌漑計画がどのように農村社会のジェンダー秩序に変化をもたらしたのかについて、キリマンジャロ州ローアモシ灌漑地区において第二次現地調査を行った。地権者および所有土地面積に占める女性農民比率の多い3地区を上流、中流、下流地域から選定し、半構造的面談調査を実施した。被面談者は、地権者、賃貸者、土地なし労働者の男女(合計41名)である。1987年当時の土地台帳も入手した。その結果、調査対象の全3地区において、1987-2012年の間に女性の地権者の割合が上昇したことが判明した。上流では40%-50%へ、中流14%-59%、下流24%-28%になった。また土地所有面積も上・中流では女性所有割合が50%、下流では26%になった。しかし土地所有面積(男女)は全3区で減少した。前年度の現地調査では、1987年の土地再配分において、女性農民は不利な状況に置かれたことが判明したが、その後25年間において、女性の土地所有率が高まる傾向が見られた。しかし同時に農地の細分化も進行している。 タンザニアの土地所有制度には、制定法、慣習法、イスラム法が併存しているため、「地権者」の定義が一様ではない。特に女性の地権者に関しては、夫から相続しても息子が成長するまでの代理人としての地権者、独自の処分権を伴わない地権者(売買・担保権がない)、寡婦の場合は再婚をしないという前提での地権者などの状況が混在しており、女性にとっての「土地所有」の意味やインパクトが多用であることが判明した。本年度は更に、ローアモシ灌漑地区全体の家計状況に関するサンプル調査(n=360)および、上記3地区における土地所有とジェンダーに関する地権者を対象とする悉皆調査(n=300)も実施し継続的にデータ分析を進行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
タンザニアにおける第一次現地調査、および第二次現地調査が順調に終了した。途上国ではほとんど存在しない非常に希少な1980年代の土地台帳、圃場のプロット図、過去10年間の気象データなども入手することができた。今年度の調査結果については、タンザニア農業省、ダルエスサラーム大学ジェンダーセンター、タンザニアJICA事務所などにフィードバックすると同時に、これまでの成果については、国内外の学会、および欧州連合(EU)、アジア開発銀行(ADB)などの国際セミナー、東京大学社会科学研究所、東京大学院新領域のゼミナールなどで発表した。 カンボジアで開催されたInternational Society of Environmental and Rural Development (ISERD)の学会発表では最優秀論文賞を受賞した。
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今後の研究の推進方策 |
ローアモシ灌漑地区全体の男女の地権者、賃貸者、土地なし労働者を対象とした家計状況に関するサンプル調査(n=360)、および土地所有・相続とジェンダーに関する調査(n=300)を実施したので、その分析を継続的に実施する。同時に、これまでの半構造的面談調査の結果をさらに分析し、収集した統計データ分析結果もあわせ、包括的な最終論文を作成する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
関連する書籍類・備品の購入、必要に応じてタンザニアにおける短期の補足調査の実施、日本国内及び海外における学会投稿・発表など。
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