研究課題/領域番号 |
23510342
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
姫岡 とし子 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (80206581)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 近代ドイツ / ジェンダー / ネイション / ナショナリズム / 女性運動 / フェミニズム / 全ドイツ同盟 / 民族至上主義 |
研究概要 |
ナショナリズムにはさまざまN潮流が存在する。近代ドイツのナショナリズムとしては、自由主義ナショナリズム、権力国家志向ナショナリズム、民族至上主義(急進)ナショナリズムが存在し、どのナショナリズムも女性と男性の本質的な違いから出発する。しかし、自由主義ナショナリズムは、「女性性」の肯定的な側面を認め、女性の地位向上に理解を示したのに対して、後者の二つのナショナリズムは、「歴史は男性が作る」と考え、女性の役割を妻・母に限定するとともに、女性の社会進出に否定的であった。ナショナリズムにとってジェンダーは不可欠の構成要素であり、ジェンダーをベースに社会秩序を定めていた。とりわけ、勇気、決断、戦闘性などの「男性性」は、強力な国家を形成してヨーロッパにおける覇権を実現し、海外進出を最高させるための生命線となった。世紀転換期には、女性の大学入学と専門職への進出、事務職への進出、社会活動の活発化など、女性の地位がじょじょに改善されるとともに、女性参政権獲得運動も展開された。急進ナショナリストは、この動きに歯止めをはけるために、女性参政権反対闘争を活発に展開した。女性参政権反対理由は、3つに要約される。第一に、男女の適正であり、論理的、理性的な男性とは異なり、感情的で主観的な女性は政治的能力をもたない、という見解。第二に、家族を擁護するため、女性の使命は母となって家族を守ることにこそあり、家族が健全なら民族も健全になると考えられ、フェミニズムは家族を破壊する運動だと捉えられた。第三に、国家は男性的な性格を保持すべきで、女性が参政権を得ることによって、国家に女性的な刻印が押されてはならなり、と考えられたからである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
夏休みを利用してドイツで資料収集を行い、主として右派急進ナショナリストによる反女性参政権運動について、その分析を開始した。まだ活字にするにはいたっていないが、平成24年4月に成果の一部をメトロポリタン史学会で報告した。ドイツ訪問時には、関連領域である「ホロコーストの記憶文化」についても調査し、その成果を英文論文にまとめて公表した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度収集した資料の整理と分析という仕事が残されているので、まずは、その課題を遂行する。同時並行的に、反女性参政権運動を中心とする急進ナショナリズムとジェンダーに関する論文を書く予定である。本年度も再度、夏にドイツに赴き、引き続き見地で資料収集を行う。その後、反フェミニズムの活動を行った事務職系の団体について、分析を深める。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度の研究費の残額は1525円で、ほぼ当初の予算執行予定通りの支出額となった。本年度は、再度ドイツで資料収集と研究交流を行う予定で、その予算として70万円を計上し、残りは書籍購入などの物品費として30万円、人件費・謝金として10万円、その他10万円で、合計120万円を支出する予定である。
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