本年度は、最終年度にあたっているので、まとめに向けた作業を行った。夏に渡独し、ヘレーネ・ランゲ文書館、連邦文書館および国家図書館で史料を収集した。秋には、研究のまとめとなる論文「ナショナリズムと女性の政治化」(メトロポリタン史学、第9号)を執筆した。本論文では、ナショナリストをいくつかの潮流に分類し、そのなかでも、とくにバックラッシュ勢力の中心だった右派急進ナショナリズムを取りあげ、彼らの理念・目的とジェンダーの関係について考察した。右派急進ナショナリストのめざす均質的な民族共同体の形成のためにジェンダーは決定的に重要で、男女が共同体のなかで、それぞれに与えられた居場所にいて、役割をまっとうしてこそ、強力な共同体が形成された。それゆえ、その枠内に出ようとする活動に対しては、徹底的な批判が行われた。その一つである反女性参政権運動について、当時の社会状況と関連させながら、その言説と活動について検討した。重要なのは、彼らがネイションの基盤と考える家族の破壊につながるという点と、国家は男性的でなければ強力にはなれないので、女性の政治参加は国家の脆弱化につながる、という点である。2月にはドイツのボーフムで行われた女性運動に関するシンポジウムで、「女性運動とバックラッシュー日独比較の観点から」というタイトルで報告した。本報告では、日本の現在のバックラッシュとの比較の観点から、ドイツの歴史的なバックラッシュとナショナリズムの関係について報告した。
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