自己免疫性肝炎は他の自己免疫性疾患と同様、罹患者は女性が多く、日本において閉経期である50~60歳代とエストロゲンの大きく低下する年代が好発年齢である。一方、罹患者でエストロゲンの産生量が増加する妊娠中では軽快例もあるため、本疾患の病態とエストロゲンとの関連性は深い。しかし、エストロゲンによる免疫学的調節作用について不明な点が多く、自己免疫性肝炎についてはその発症機構について未だ解明には至っていない。そこで、本研究は免疫応答を調節する樹状細胞に焦点を当てて、自己免疫性肝炎モデルマウスを用いて、エストロゲンが標的臓器の肝臓内樹状細胞に与える影響と自己免疫性肝炎の肝障害との関連性を明らかにすることを目的として研究を行った。 本年度は、エストロゲンによる自己免疫性肝障害の肝内樹状細胞に焦点を当てた抑制機構の解明と肝内樹状細胞のエストロゲン受容体の局在について検討を行った。その結果、エストロゲン投与により自己免疫性肝炎の肝障害が抑制されたマウス肝内に増加したCD274陽性樹状細胞はIL-10産生能の増強を認めた一方で、脾臓の樹状細胞のIL-10産生能は減弱していた。また、2種類あるエストロゲン受容体のうちα鎖が肝樹状細胞に優位に発現を認め、β鎖は肝、脾ともに発現が認められなかった。 これまでの結果を総括すると、エストロゲンは自己免疫性肝障害を抑制し、その機構は、肝内のIL-10を産生するCD274陽性樹状細胞が増加することによりIL-12が抑制され、NKT細胞やその他のeffector細胞の細胞傷害活性が抑えられているためである可能性が示唆された。また、肝樹状細胞は脾臓のそれに比してエストロゲン受容体α鎖が優位に発現していることから、エストロゲンが樹状細胞に直接的作用を有する可能性も示唆された。
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