今年度は特に、科学アカデミーの選挙について分析した。昨年に続いて当時の新聞の比較を行った。今年度は科学と宗教の問題をほりさげた。そこで科学アカデミーの選挙についても、その同年のランジュヴァン事件についても、宗教の問題が根本に存在していることが明らかになった。ただし、当時のフランス人にとっての宗教はあくまでキリスト教であり、その点において、今日問題になっているイスラム教の問題は考慮だにされていない。もちろん仏教もしかりである。特にこの問題については、東北大学での招待講演で詳しく解説した。これを含め、今年度はキュリーに関して3度の講演を行い、うち1回は国際学会での英語の発表、もう1回パリ天文台よりの招待によるフランス語の発表ということで、非常に国際的な貢献を行うことができた。 また、今年度はパリのキュリー博物館の資料部責任者ナタリー・ピジャール氏がキュリー研究室の女性の弟子についての情報を提供してくれた。ここからこの女性たちが20世紀初頭から後半までの放射能研究の発展および、女性科学者の進出に大きく貢献していることがわかった。しかもキュリーは10名近いアジア人研究者も研究室に受け入れており、ここからのキュリーの国際性、多様性がよりはっきりした。 こうしたことからも、ノーベル賞という科学上の実力や、多数の多国籍の優秀な弟子の育成という桁外れの業績にもかかわらず、その性により科学アカデミー入りを拒絶されたことは、当時の女性差別がどれほどのものだったのか、またそこに宗教の問題がからみ、この事件ではすべてがキュリーに不利に働いたということがより明確になった。 さらに今年度は科学教育の立場からも、おもに高校の化学教員、大学の化学教員むけの雑誌にキュリー記事を執筆した。また、化学史辞典および物理学辞典において、キュリー関係の項目を多数執筆した。
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