研究課題/領域番号 |
23510348
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
中川 和子 熊本大学, 生命科学研究部, 教授 (20284747)
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研究分担者 |
猿渡 淳二 熊本大学, 生命科学研究部, 助教 (30543409)
鬼木 健太郎 熊本大学, 生命科学研究部, 助教 (00613407)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 性差医療 / 個別化医療 / 副作用 / 生活習慣病 / 臨床薬理遺伝学 / 国際情報交流 / 予防医学 |
研究概要 |
本研究は、性別と遺伝情報に基づいた、副作用と生活習慣病リスクの層別化を目的とする。研究成果1.[目的]女性が副作用発現の危険因子であることを証明し、その実態を明らかにして、女性の副作用回避対策を考案する。[方法]薬剤師による服用中医薬品の副作用調査である日本薬剤師会Drug Event Monitoring (DEM)事業データ(H16-22年度の28,166例)のサブグループ解析を行った。[結果] 吸入ステロイドとCa拮抗薬による副作用発現率は女性が有意に高く、オッズ比(OR)は2.0、1.3であった。プロトンポンプ阻害薬(PPI)では65歳未満、SU剤では他の糖尿病治療薬併用群で有意な性差を認めた(OR:2.7、1.7)。[考察] 6種類の対象薬のうち4種類で、女性が副作用発現の危険因子であることを確認した。一方、PPIやSU剤では層別化して初めて有意差を認め、"潜在する副作用の性差"を明らかにするためには多角的な検討が不可欠であることを示した。研究成果2.[目的]生活習慣病の発症進展リスクを性別と薬物代謝酵素の機能性遺伝子変異で層別化する。[方法]人間ドック受診者、糖尿病・冠動脈疾患・統合失調症患者:計1,706例を対象として、日本人でアレル頻度が高い10種類の機能性遺伝子変異の影響について横断的研究、症例対照研究、縦断的研究を行った。[結果]性差を認めたもののみを示す。2型糖尿病の横断的研究では、女性のグルタチオン転移酵素M1欠損者が網膜症のリスクであった(OR:3.2)。また、縦断的研究では、アルデヒド脱水素酵素2 欠損が、網膜症の発症(OR:2.4)と増殖性網膜症への進展リスク(OR:2.7)であり、女性でその影響が顕著であった。[考察]女性で糖尿病性網膜症の発症・進展リスクが高く、抗酸化酵素の遺伝的活性欠損によってその危険が増大することを初めて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.女性が副作用発現の危険因子であることを証明し、その実態を明らかにして、女性の副作用回避対策を考案するための研究では、熊本県薬剤師会DEM事業調査結果のサブグループ解析が可能であった6年分のデータをすべて解析して上記の成果を得た。さらにH23年度のDEM事業:DPP4阻害薬の副作用調査では、我々の提案により熊本県薬剤師会独自の調査項目を追加収集して解析中である。女性が副作用発現の危険因子となる原因は薬剤毎に異なり、回避対策には詳細な検討が必要と考えられた。2.生活習慣病の発症進展リスクを性別と薬物代謝酵素の機能性遺伝子変異で層別化するための研究では、軽症から末期まで様々な病態の生活習慣病患者 (1,700例)を対象として、予備研究で有意であったチトクロームP450(CYP)2C19、CYP3A5、グルタチオン転移酵素(GST)M1、GSTT1、GSTA1、パラオキシゲナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ2、アルデヒド脱水素酵素(ALDH)2、ハプトグロビン、メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素の機能性遺伝子変異に関して検討し、上記の成果以外にも、1) 冠動脈疾患合併糖尿病患者では、GSTT1欠損が慢性腎不全(CRF)のリスクであり(OR:2.8)、GSTT1非欠損のnever smoker (NS)に比べてGSTT1欠損のever smoker (ES)ではCRFリスクが5.1倍高く、GSTT1欠損かつGSTA1*1B(活性低下アレル)保持者のESでは7.7倍高かった。2) ALDH2欠損は冠動脈疾患患者のCRFのリスク(OR:2.8)であり、ALDH2欠損のESは非欠損のNSに比べて4.4倍CRFリスクが高く、非糖尿病群や高血圧群でALDH2欠損とESの影響が顕著であった。等を明らかにして、H23年度中に国内外の学会で20演題を発表し、現在論文を作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
H23年度の研究計画を順調に実施できたので、当初の計画から大きな変更は無い。1.副作用調査:人間ドック受診者の副作用調査は、対象者の記憶に頼ることから多くのバイアスが含まれる。また、薬局薬剤師が服用中の薬の副作用を直接確認し、ネットワークを活用して副作用情報を収集するDEM事業データの解析が順調に進んだことから、今後副作用の性差に関する研究は、熊本県薬剤師会との共同研究を中心に実施する。また、上記の解析結果をもとに日本薬剤師会に対して副作用の性差に関する全国調査の実施を提案する(申請期間中の実施は難しいが、この提案は申請課題の目標のひとつである)。2.性別と薬物代謝酵素の機能性遺伝子変異による生活習慣病の発症進展リスクの層別化:前年度の研究を継続しながら、特にH23年度に明らかにした糖尿病における網膜症の発症進展の性差やSU剤による副作用発現の性差については特に詳細に検討する。3.新たな酸化ストレスに係るバイオマーカーを用いた病態解析:酸化ストレスが生活習慣病の病態に深く関っていることは明らかであり、薬理遺伝学的根拠に基づいた個別化医療を実践するためには、遺伝子情報に加えて、生活習慣の改善(禁煙)等による酸化ストレス状態の変化を簡便に把握できるバイオマーカーが必要である。そこで、当分野の准教授であった佐藤圭創(現九州保健科学大学薬学部教授)が中心となって開発した新規酸化ストレスマーカー測定キットと、既存のフリーラジカル解析装置(FREE carpe diem)を用いて、生活習慣と相互作用を示すハイリスク遺伝子保有者では、喫煙や高血糖により高度の酸化ストレス状態を生じるのか否かについて確認する。4.育薬フロンティアセンターを拠点とした情報発信:得られた成果は学会や論文で発表する他に、育薬フロンティアセンターのホームページやネットワークを活用して社会に発信する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究遂行のための設備や備品は完備しており、設備備品費は必要無い。消耗品費の大半は、試料の保存や遺伝子型判定のための制限酵素や薬品、ガラス・プラスチック器具に使用する。工夫を重ねて遺伝子型判定費用を削減したのでこの経費で相当数の解析が可能である。旅費については特記すべきことは無い。謝金:研究補助費は、個人情報の保護のために、共同研究施設の担当者や第三者に情報提供や匿名化作業を依頼するための経費である。研究実施場所等の借り上げ費は、調査期間中、同意取得や問診、並びに施設内におけるデータ整理の場所を確保するために使用する。印刷費、通信費は問診票や結果報告書の印刷及び送付のための経費である。研究の発展により必要経費が増大する場合に備えて、積極的に研究助成への申請を行うが、不足分については現在研究責任者が保有する奨学寄付金等からの支出も可能であるので研究の遂行に支障は無い。
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