研究課題
研究成果1.[目的]女性が副作用発現の危険因子であることを証明し、その実態を明らかにして、女性の副作用回避対策を考案する。[方法]薬剤師による服用中医薬品の副作用調査である日本薬剤師会Drug Event Monitoring (DEM)事業データ(H23年度の1,550例) を対象として、DPP-4阻害薬服用中の副作用症状の発現に係る因子を検討した。[結果] 低血糖症状には、女性(オッズ比=5.7, P<0.001)、肝疾患、週4回以上の飲酒、喫煙経験が、低血糖以外の副作用症状には、他種糖尿病治療薬併用、女性、腎疾患が有意に影響していた。[考察]女性でDPP-4阻害薬による低血糖症状が多かった背景には、女性の生理学的要因が関与することを示唆した。研究成果2.[目的]生活習慣病の発症進展リスクを性別と薬物代謝酵素の機能性遺伝子変異で層別化する。[方法]人間ドック受診者、糖尿病・冠動脈疾患・統合失調症患者:計3,858例を対象として、日本人でアレル頻度が高い10種類の機能性遺伝子変異の影響について横断的研究、症例対照研究、縦断的研究を行った。[結果]性差を認めたものの一部を示す。①男性では、グルタチオン転移酵素の欠損・活性低下遺伝子型を2つ以上保有する非喫煙者は保有しない非喫煙者より非アルコール性脂肪肝のリスクが高く、喫煙者でそのリスクがさらに上昇したが、女性では本遺伝子型より脂質異常症の影響が大きかった。②糖尿病の縦断的研究では、女性は推算糸球体濾過量の年間低下量が男性より有意に大きかった。初診時の重回帰分析では、両性で糖尿病罹病期間、HbA1c値、尿蛋白陽性がeGFR年間低下量に有意に影響し、女性では総コレステロール高値の影響も有意であった。 [考察]女性の一部に糖尿病合併症のハイリスク群が存在することを示し、性差の原因を遺伝的・生理的・社会的側面から検討中である。
1: 当初の計画以上に進展している
研究成果1.では、過去の熊本県薬剤師会DEM事業調査結果のサブグループ解析を完了した。また、H24年2月のDEM調査では、我々の提案により熊本県薬剤師会独自の調査項目を追加して上記の結果を得、Drug Safetyに投稿した。以上より、7種類の対象薬のうち5種類(DPP-4阻害薬、吸入ステロイド薬、SU剤、Ca拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬)で、女性が副作用発現の危険因子であることを確認した。加えて、女性が副作用発現の危険因子となる原因は薬剤毎に異なり、女性の副作用回避対策には、各薬剤毎に詳細な検討が必要であることを報告した。研究成果2.では、軽症から末期まで様々な病態の生活習慣病患者において、対象数を昨年度の倍に増やして各種検討を行い、当初考えていた以上に、生活習慣病診療における女性への様々な配慮と、女性への健康啓発活動が重要であることを示す研究成果を蓄積しつつある。
H24年度の研究計画を順調に実施できたので、当初の計画から大きな変更は無い。1.副作用調査:薬局薬剤師が服用中の薬の副作用を直接確認し、ネットワークを活用して副作用情報を収集するDEM事業データの解析が順調に進んだことから、今後副作用の性差に関する研究は、熊本県薬剤師会との共同研究を中心に実施する。また、上記の解析結果をもとに日本薬剤師会に対して過去の全国調査結果の性差に関するサブ解析を依頼中である。2.性別と薬物代謝酵素の機能性遺伝子変異による生活習慣病の発症進展リスクの層別化:前年度の研究を継続しながら、H23年度、H24年度に明らかにした糖尿病網膜症と腎症の発症進展の性差や副作用発現の性差についてさらに詳細に検討して論文発表する。人間ドック受診者に関する検討では、過去の受診記録に遡って生活習慣病発症に係る危険因子の性差を縦断解析することを計画中である。3.新たな酸化ストレスに係るバイオマーカーを用いた病態解析:酸化ストレスが生活習慣病の病態に深く関っていることは明らかであり、薬理遺伝学的根拠に基づいた個別化医療を実践するためには、遺伝子情報に加えて、生活習慣の改善(禁煙)等による酸化ストレス状態の変化を簡便に把握できるバイオマーカーが必要である。そこで、当分野の准教授であった佐藤圭創(現九州保健科学大学薬学部教授)が中心となって開発した新規酸化ストレスマーカー測定キットと、既存のフリーラジカル解析装置(FREE carpe diem)を用いて、生活習慣と相互作用を示すハイリスク遺伝子保有者では、喫煙や高血糖により高度の酸化ストレス状態を生じるのか否かについて確認する。4.育薬フロンティアセンターを拠点とした情報発信:得られた成果は学会や論文で発表する他に、育薬フロンティアセンターのホームページやネットワークを活用して社会に発信する。
研究遂行のための設備や備品は完備しており、設備備品費は必要無い。消耗品費の大半は、試料の保存や遺伝子型判定のための制限酵素や薬品、ガラス・プラスチック器具に使用する。工夫を重ねて遺伝子型判定費用を削減したのでこの経費で相当数の解析が可能である。旅費については特記すべきことは無い。謝金:研究補助費は、個人情報の保護のために、共同研究施設の担当者や第三者に情報提供や匿名化作業を依頼するための経費である。研究実施場所等の借り上げ費は、調査期間中、同意取得や問診、並びに施設内におけるデータ整理の場所を確保するために使用する。印刷費、通信費は問診票や結果報告書の印刷及び送付のための経費である。研究の発展により必要経費が増大する場合に備えて、積極的に研究助成への申請を行うが、不足分については現在研究責任者が保有する奨学寄付金等からの支出も可能であるので研究の遂行に支障は無い。
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Pharmacogenet Genomics
巻: 23 ページ: 34-37
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Drug Metab Lett
巻: 6 ページ: 67-72
Pharmacogenomics
巻: 13 ページ: 1477-1485