研究課題/領域番号 |
23510357
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
岡野 八代 同志社大学, グローバル・スタディーズ研究科, 教授 (70319482)
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研究分担者 |
牟田 和恵 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (80201804)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 社会学 / 政治学 / ケアの倫理 / グローバルな正義 |
研究概要 |
本研究の目的は、ケアラーの依存状態と暴力に晒されやすい社会状況を明らかにし、ケアラーに対する社会的・物的・人的支援の理論的根拠となるドゥーリアの概念を精緻化することである。本年度は実施計画に基づき、2011年7月、カナダ・オタワで開催されるWomen’s World 2011 において、岡野はケアの倫理のグローバルな可能性、牟田は母性主義再考に関する報告を行った。そのさい、カナダでMIRCSを主催するAndrea O’Reilly ヨーク大学教授に、近年の母親研究に関する動向についてインタビューをし、国際的な母親運動研究のコネクション構築に成功した。また、日本における家族政策の不備とケア問題の軽視に関連させ、ケアの小集団の実践を克明にすることで、婚姻・家族制度に代わるコミュニティの原理を明らかにするために、中国南部における月嫂の調査を開始した。とくに、香港における調査において、月嫂、つまり出産後一か月母親のケアをする制度(香港においては、倍月員とも呼ばれる)の存在を確認し、香港政府が中年女性の再雇用、若年女性の雇用促進などの政策とともに、本サーヴィスを政策として率先していることが明らかになった。サーヴィス業者、サーヴィス遂行者、そしてサーヴィスの受容者へのインタビューにも成功し、今後アジア地域におけるドゥーリア実践を考察する足場を築いた。なお理論研究については、代表の岡野が『フェミニズムの政治学--ケアの倫理をグローバル社会へ』(みすず書房、2012年)を公刊し、ケアの倫理学と正義論との架橋がいかに可能なのかを明らかにした。また、分担者牟田とともに、ドゥーリア概念を構想した倫理学者エヴァ・キテイとの共著『ケアの倫理からはじめる正義論--支えあう平等』(白澤社、2011年)を公刊し、依存する・される関係性の平等という新しい社会原理を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の核となる理論研究、ケアの倫理と正義論の架橋については、上述のように、岡野・牟田ともに、理論書を発表し、また、香港での調査によって、政策としてすでにドゥーリアの実践を遂行しているケースが明らかになった。今後の2年間では、すでに構築した理論と、香港をはじめとした中国南部の調査(すでに、調査協力者は確保済み)をすすめ、出産後の女性の身体・精神へのケアが、広くそれ以外の女性たちの生活環境の改善にもつながること、また、社会における男女平等にも貢献しうる可能性が存在することを指摘しうる可能性が広がった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、アジアにおけるドゥーリア実践についての調査を続けるとともに、ドゥーリア(月嫂)を支えるケアの倫理の理論的考察について、海外学会での報告を積極的に行っていく。また、岡野はさらに、ケアの倫理とグローバル社会研究:文献研究を中心にした、ケアの倫理とグローバルな正義論を架橋する理論研究と、暴力に敏感で身体論を中心とする政治理論の確立に努める。また、牟田は、単婚に代わる、ケアの小集団研究:合衆国・ノーザンプトン、カナダ・トロントにおけるコミュニティの実態調査。カナダを中心とするMotherhood Initiative for Research and Community Involvement(MIRCI)における研究活動・研究成果を収集し、単婚を中心とした家族制度を超える、新しい共生の在り方を提示していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、物品費として2011年度末に公刊された岡野の単著を、多くの研究者からの批判・意見を仰ぐことでさらなる成果へと結び付けていくために、約100冊(40万円)購入する。また、旅費については、香港での再調査、そして北米のゲイ・コミュニティにおける、単婚家族を超えたつながりに関する調査を行う。
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