本研究により『魂論』第二巻第一章における「魂」の定義に用いられる「力能dunamis」そして「完成entelecheia」の概念を、その対となる「実働energeia」の概念とともに明確に理解するにいたった。これらは存在の様式を開示する術語として様相存在論を構成するものである。従来「可能態dunamis」と「現実態energeia =entelecheia」等と訳されてきたが、これでは精密な議論の展開を正確に理解できず、私は彼の存在様式の分析方法を新たに展開した。アリストテレスは本研究において展開した新しい訳語に対応する理解のもとにロゴスアプローチとエルゴンアプローチという二つの視点から魂についてアクセスを試みていたのである。ロゴスにおいて事物の一性を開示する「力能」と「完成」の対により「魂」の定義「力能において生命を持つ自然的物体の第一の完成」が提示される。彼はこれにより身体の完成としての魂の本質を捉え得たとしている。他方、彼はエルゴン上実働がその実働であるところの共時的な「力能」からロゴス上完成においてあるものが常に実働できる状態にある「待機(standby)力能」を判別する。「完成」により特定される最終質料の待機力能は実働における共時的な力能と判別される。魂(完成)は常に実働できる待機にある身体と「一」である(412b6)。実働次元とロゴス次元判別の典拠としては、「魂が内在することにおいて、睡眠[待機力能の類比物]と覚醒[実働の類比物]がある」(a23)、「魂を失ったものではなく、魂を持っているものが力能にあってその結果生きている」(b25)がある。生きているという実働は今ここのこととして観察により帰納的に把握されるが、その根拠として形相・ロゴスである「魂」の存在が立証される。本研究の成果は従来の翻訳に対する対案として第二巻に関し異なる翻訳となった。
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