本研究の目的は、動機内在主義と徳倫理学とが必然的な関係にあることを示すことである。動機内在主義とは、道徳判断と道徳的行為の動機付けとの関連は概念的なもの、あるいは必然的なものとする立場である。動機内在主義は、本来情動主義、あるいは表出主義に付随する非-認知主義的な主張として提起されたが、現代の動機内在主義はそのような旧来の内在主義とは異なり、道徳判断の真理性を前提した理性主義的-客観主義的なものである。このような理性主義的内在主義はカント的内在主義とも呼ばれる。今年度の目的は、カント倫理学を手がかりに、理性主義的動機内在主義の可能性を探ることであった。 カント倫理学が動機内在主義であることは自明のように言われるが、カント倫理学を外在主義として解釈する立場もある。だがカントの格率概念を道徳判断と同義のものと読み替えることによって、カント倫理学を動機内在主義として理解することが可能になる。本研究の本年度の主たる目的は「格率」概念を手がかりとして、カント倫理学は動機内在主義であることを確認し、それによって理性主義的な内在主義の可能性を示すことであった。本年度はこのような研究成果をカント研究会第274回例会(山形大学)で発表したが、その成果をまとめた論文はほぼ完成しており、27年度に刊行される単行本の一部として発表する予定である。 また本年度も昨年度に引き続き、メタ倫理学に関する研究動向の調査のために国内外の関連する学会・研究会に参加した。特にロンドン大学で開催された、メタ倫理学に関する研究会であるBritish Society for Ethical Theoryに参加し、特にハイブリッド表出主義に関する最先端の研究に関する討議に参加した。また現代の代表的な徳倫理学者であるマクダウェルに詳しい研究者と、現代カント主義に詳しく、道具的実践理性の問題を扱う研究者へのインタビューを行った。
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