研究課題/領域番号 |
23520005
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
小林 睦 東北学院大学, 教養学部, 教授 (20292170)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 現象学 / フッサール / 「転覆」草稿 / メルロ=ポンティ / 超越論的地質学 / 大地/地球 / 大陸移動説 / プレートテクトニクス |
研究概要 |
晩年のメルロ=ポンティは,フッサールによる未刊草稿「自然の空間性の現象学的起源にかんする基礎研究」(以下「転覆」草稿)をふまえつつ,「超越論的地質学(geolologie transcendantale)」と呼ばれる新しい研究を構想していた。これは,地球の表層を構成する地殻岩石や地層化石などを対象とする経験的な科学ではなく,人間と世界との志向的な歴史にかんする現象学的な探求,を意味するものである。 「超越論的地質学」という語は,フッサールの「転覆」草稿の主題と射程を,晩年のメルロ=ポンティ独自の視点から正確に示している。「超越論的地質学」は,「沈澱と再活性化」を可能にする地盤としての大地〈Erde〉を対象としているからである。メルロ=ポンティは,晩年の講義「現象学の限界に立つフッサール」の中ですでに「転覆」草稿に言及しており,そこでは「すべての静止とすべての運動がそこに浮かびあがってくる地」としての「大地」が,「肉」の存在論という観点から,新たに解釈されることになる。 しかし,今年度の研究では,こうした「肉」の存在論へと歩みを進めるのではなく,フッサールの「転覆」草稿から出発して,そこで提起された「大地」概念を,20世紀の地質学において生じた科学革命という観点から,検討し直すことを試みた。具体的には,ヴェゲナーによる「大陸移動説」,および,その発展形態としての「プレートテクトニクス」の主張を,現象学的な観点から考察することを行なった。そうすることにより,フッサールの「転覆」草稿の視野には含まれなかった,「大地 / 地球」のより精細なあり方を明らかにすることができるからである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(理由)平成23年度の研究は,当初計画とは若干異なる観点から,着手することになった。本研究の開始直前に東日本大震災が起きたからである。震災の体験をふまえて本研究がまず行なったのは,知覚行為が成立するための前提となる「大地」について,現象学的および科学史的な観点から再考するというという作業である。その成果は「超越論的地質学の再検討─フッサール「転覆」草稿を越えて─」として発表された。 その上で,上記研究と並行して,初年度は当初の計画に沿った研究作業に従事した。すなわち,ギブソンとメルロ=ポンティにおける「存在論」の意味を比較することを通して,両者の知覚理解にかんする異同を明らかにする作業を行なった。 具体的には,(1)メルロ=ポンティにおける「可逆性(reversibilite)」と「世界の輻〔や〕(rayons de monde)」という二つの概念が,どのような含意をもつのかを確認すること,(2)これらに対応する類比概念として,ギブソンの知覚論の中に見出される「知覚システム」と「アフォーダンス」という概念を取り上げ,それがどのような意味をもつのかを分析すること,(3)メルロ=ポンティとギブソンが共に影響を受けた,ゲシュタルト心理学における「誘発性」「不変項」,「体制化」といった諸概念を,両者がそれぞれどのように捉えたのかを比較検討すること,を行なった。これらの成果は24年度に発表予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策については,特に変更はない。平成23年度の計画と研究のあいだに若干のズレが生じた点を修正し,従来の計画通り,生態心理学,現象学,認知哲学が,知覚を受動的な感覚の統合としてではなく,能動的な行為の連関として理解しようとする点を評価しつつ,それらの異動を踏まえた上で,知覚のもつ「行為性(enactive nature)」を「知覚行為(perception act)」として捉え直すことを試みる。 平成24年度は,ギブソンの生態心理学的な知覚論と,それに対して古典的計算主義が行なった批判について,比較検討する作業を行なう。 具体的には,以下の3つが主要な作業課題となる。(1)ギブソンの生態心理学的な知覚論に対し,古典的計算主義者であるフォーダー=ピリシンが加えた批判について改めて検討することを試みる。こうした議論の対立に見られるのは,ギブソンによる知覚の直接説(消去主義)と計算主義の唱える知覚の間接説(表象主義)との解釈上の対立である。(2)計算主義によるギブソン批判に対し,ギブソニアンたちが行なった反論の内容を吟味し,知覚の本性にかんする論争の意味を考察する作業を行なう。すなわち,フォーダー=ピリシンによるギブソン批判に対し,ギブソニアンであるターヴェイ=リードが行なった反論の内容を検討する。(3)以上を踏まえた上で,ギブソニアンと計算主義のあいだでなされた論争の帰趨を確認する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は個人研究であり,文献を中心とする研究である。「研究計画・方法」において述べた研究規模,研究体制を維持しつつ研究を行なうためには,主として以下の項目にかんする経費が必要となる。 (1)コンピュータおよび周辺機器の新規購入費,(2)ソフトウェアの新規購入および更新費,(3)文献調査および成果発表のための旅費,(4)書籍購入費,(5)その他雑費(海外文献複写費など)。 以上の項目のうち,(4)の書籍購入費としては,認知科学関係図書,分析哲学関係図書,現象学関係図書が中心となる。
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