最終年度である平成25年度の研究計画の一つの目標は、前年度までに着手した「幽玄」概念に関して得られた成果を取りまとめることにあった。この点では、赤羽学らの詳細な用語法的研究と、大西克禮の美学的研究に基づきつつ、それを批判的に検討した論文「幽玄美とは何か―ヨーロッパ美学からの照射と返照」(『ヨーロッパ研究』所収、東北大学大学院国際文化研究科ヨーロッパ文化論講座編、2014年3月)をまとめ、公刊できたことは、一つの成果であった。 ただし、最終年度のもう一つの目標であった、三年間の成果を一冊の著作の形で取りまとめるという所まで研究を進展させることはできなかった。研究期間である三年間の目標は、研究期間以前にすでに為されていた美学・芸術論一般に関する考察と、侘びに関する考察とをさらに発展させ、日本独自の美意識と目される侘び・寂び・幽玄について、従来の考察を踏まえつつも、より明確な哲学的規定を試みることにあった。その点では、研究期間前にすでに公刊されていた侘び概念に関する論文の他に、寂び概念に関する論文一篇、幽玄概念に関する論文一篇をまとめることができたことは、まずまずの成果であった。しかし、それと同時にこの研究では、美学理論をさらに深めることも目指されており、その点で浮上してきたのが、いわゆる音楽や絵画といった純粋芸術における美ではなく、日常生活の中での工藝的な美や、機能美といった、柳宗悦が「用の美」と呼んだ領域の美の問題だった。それはカントのいわゆる「美の無関心性」との関連で問題になるのだが、この点に関しても未発表ではあるが一篇の論文を仕上げることができた。研究期間は終了したが、引き続き検討を続け、こうした成果をさらに発展させて、著作の形にまとめるという目標を追究したい。
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