本研究「西洋中世十三世紀の認識論研究」は、西洋中世十三世紀の認識論研究の発展に寄与することを目的として、トマス・アクィナスによる『アリストテレス 記憶と想起註解』の翻訳を、詳細な訳注を付して完成させることをめざしている。平成25年度の研究計画は、前年までに訳出しているトマス・アクィナスによる『アリストテレス 記憶と想起註解』の訳文をより正確で、かつ読みやすいものにすること、そして訳注と補注をつけて、解説文を書くこと、基本用語のなかでもまだ訳語が確定していないものについては慎重に検討を行うことであった。 平成25年度の研究を通して、訳文と訳注はほぼ完成した。解説文の前提となる、アクィナスの記憶論の特徴について、2013年6月29日に「記憶について」というタイトルで口頭発表を行った(第229回京大中世哲学研究会、於:京都大学吉田泉殿)。その内容は要約すると次のようになる。 トマスは記憶論や想起論といった領域においても興味深い議論を展開しており、独特の議論を展開している。パーソナルな記憶と非パーソナルな記憶の区別の素地はすでにアクィナスにある。また本発表では、トマスのみならず、本研究において前年までに調査を行ったアルベルトゥス・マグヌスの記憶論・想起論にも言及して、記憶と想起について、そして「記憶は賢慮の部分である」というキケロの影響力のある見解の解釈について、トマス・アクィナスのそれとの比較を行い、両者の解釈の異同のいくつかを提示した。 上記の内容は「記憶と想起について―アクィナスの場合―」として『中世哲学研究VERITAS』第32号(2013.11.25)(pp.42-62)に掲載された。アクィナスによる『アリストテレス 記憶と想起註解』の翻訳は公開準備中である。
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