今年度は、昨年度に引き続いて意識の概念の歴史的性格を、とりわけアリストテレスの『魂について』の読解の歴史との関係を通じて明らかにした。 1 デカルトがconscientiaの概念を導入するうえで重要な役割を果たした「(自分が)感覚していることを感覚する」というある種の自己知覚の理解を、同じ事態についてのアリストテレスの対照的で外在主義的な分析、さらに同様の事態についてのキュレネ派、ストア派、新プラトン主義者たちの解釈の系譜をたどることによって、デカルトのconscientia概念のその歴史的性格を明確に示し、日本哲学会の学協会シンポジウムにおいて提題した。 2 さらに意識概念の成立の背景にある心の理解の特質を解明するために、アリストテレスの魂(psyche)についての考察の歴史的受容を、とりわけ「心理学」の形成という視点から考察し、心理学の成立についての通説的理解とは別の理解の可能性を提示した。すなわち16世紀にその名称が初めて流布した psychologiaは、アリストテレスの『魂について』の読解を重要な基盤として形成された学であり、経験科学的局面も含む多様な性格を備えていたが、ヴォルフらによって意識概念を核として理解される心についての学とへと変容され、それがさらにヴント以後の実験的心理学(psychology)によって変革されたのである。 3 こうした考察の基礎資料であるアリストテレスの『魂について』について改訳をおこなうとともに、読者の理解を助ける注や2の内容を含む解説を付して公刊した。
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