研究課題/領域番号 |
23520019
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
福谷 茂 京都大学, 文学研究科, 教授 (30144306)
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キーワード | 形而上学 / カント / ヘノロジー |
研究概要 |
カントのOpus posthumumを研究する最大の眼目はここにおいてカント哲学の最終的形態を確認することができることであり、同時にまたOpus posthumumを枠組みとすることでカント哲学の哲学史上の位置を測定しなおすことに資するという点に存する。この見通しにもとづき、新に得られた成果としてはスピノザとカントとの密接な連関が顕在化したことがあげられる。ただし両者は決して同じだというわけではもちろんなく、スピノザ的な神=実体の影がカントの経験概念に見られるとしても、それはスピノザ的な決定論を除外し、さらにはカント的な自由概念が加味された形態においてでなければならない。このことを突き止めることができる場所は、カントの経験概念の定礎が行なわれる『純粋理性批判』の超越論的演繹論である。のみならずこの箇所は「一」と「多」という図式の多様という点においてヘノロジーの系譜がカントのテキストの中でももっともはっきりと現われ活用されている箇所でもある。したがってこの箇所の解明は、ただカント研究一般にとって基礎付けの意義を有するだけではなく、本科研の目的にとっても決定的な重要性を持つといえる。したがって特にカントの超越論的演繹論のヘノロジー的読み直しがこの年度の課題であった。得られた成果はカントの意味での演繹を果たすメカニズムとして「一」と「多」の形而上学的な関係性が統覚の「一」と直観の「多」との関係において徹底的に活用されており、特に「一」が「多」を要求するというメカニズムは、「多」に対する「一」の優越の面ばかりが強調されがちなヘノロジーの歴史において、カントが独自性を示したものとして注目され、またその故にスピノザとの差異、すなわち必然性に対する自由あるいは自発性の成立する余地を示しえたものと認められるということである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初段階ではカントのOpus postumumの研究および翻訳を中心的な課題としていたが、このテクストの持つポテンシャルのゆえに問題は「ヘノロジー」というタームを媒介として近世哲学や京都学派の哲学にも取材範囲が広がり、スピノザ研究者のグループおよびハイデガー研究者のグループからも当科研のテーマに関心が表明される事態に直面している。これはカント研究だけにとどまらず、広く近現代の哲学史全体が射程に入ってきたということであり、また本科研のパースペクティヴが予想以上に広い範囲でアピールするものであるということを示すものである。好ましい波及効果があり、またそれが本科研の進展を要求しているということであるので、計画以上の進展を示していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は、1 ヘノロジーという概念に関してその内容定義を精密化するためにこのタームの研究上の概念としての出自を明らかにすること、2 われわれがカント研究および近世哲学史研究のために使用する場合の定義を行うこと、3この概念の射程に関して既存の哲学史観、具体的にはハルトマンの形而上学史、ジルソンの『存在と本質』、ハイデガーの「存在神学」概念などとの批判的対質を進めること、4 また特に、なぜヘノロジーが近世哲学の本筋ではなく、講壇形而上学のような敵役ですらなく、いわば隠れた主役ともいうべき位置にとどまることになったのか、という点の解明 としてさしあたり考えられる。この際にはバイアーヴァルテスをはじめとするヘノロジーの研究者たちが古代および中世哲学に関してはこの概念を活用し、またクルバリツイスに至っては現代ヘノロジー哲学という概念まで提唱しているにもかかわらず、近世哲学本体への適用に当たっては及び腰であるのはなぜなのか、という点の解明が当然解決されねばならないだろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は従来にもまして文献収集に力をいれ、既存の形而上学史においてなにが隠されてきたか、という点を実証的に明らかにしたい。近年、近世哲学史に関しては英独伊で大規模な通史が公刊されている。これらを細かく検討するならば、こうした研究の進展によっていままで忘れられていた多くの哲学者や哲学の潮流が発掘されたなかで、われわれの提唱するヘノロジーの観点がはたしてそれらをも包摂することができるか、という課題が浮かび上がってくるのは当然である。またそのことの先駆者として、20世紀最大のヘノロジストともいうべきジョヴァンニ・ジェンティーレの哲学にいよいよ取り組まねばならない時期を迎えることを踏まえ、近年新版のジェンティーレ全集が揃って規定いるので、購入を予定している。こうして研究協力者との共同作業において「近世哲学史研究におけるヘノロジー概念」の鍛え上げという点に向けた文献収集と吟味のために研究費を使用したい。
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