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2012 年度 実施状況報告書

ウィトゲンシュタイン哲学に基づく意味のデフレーショナリー理論の研究

研究課題

研究課題/領域番号 23520020
研究機関大阪大学

研究代表者

重田 謙  大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (30452402)

キーワード意味のデフレーショナリー理論 / ウィトゲンシュタイン / クリプキの意味論的懐疑 / ホーウィッチの使用理論 / 認識論的な意味 / 形而上学的な意味 / 意味論的な事実 / 自然主義的な事実
研究概要

「ウィトゲンシュタイン哲学に基づく意味のデフレーショナリー理論」(以下DM)の核心は、a. クリプキが定式化した意味論的な懐疑を正面から解決することは不可能である、b. 私による記号の使用と理解によって意味は成立する、という二つのテーゼによって構成される。
①私はDMの妥当性はウィトゲンシュタイン解釈の正当性とは独立であると考えている。しかし研究発表‘On Semantic Skepticism’を通じて、DMは後期ウィトゲンシュタインの意味をめぐる議論と少なくとも両立可能であることの論拠を提示した。これはDMの妥当性についての間接的な論拠とみなすことができるだろう。
②投稿予定の論文「意味のデフレーショニズムについて-ホーウィッチの意味の使用理論は意味論的懐疑を解決したのか-」では、P. ホーウィッチによるクリプキの意味論的懐疑の独特な解決を批判的に検討した。そして、ホーウィッチの議論は意味論的な懐疑を「正面から解決」できないこと、またホーウィッチの議論は意味論的な懐疑に対する「懐疑論的な解決」の変種とみなすのが正当な解釈であることを主張した。これはDMのaを正当化するとともに、このように解釈されたホーウィッチの意味の使用理論は、DMの具体的な構成にとって数多くの重要な示唆を与えてくれることが明らかになった。
③投稿中の論文‘Fomulation of Grammar of Sensations'によって私的言語批判は規則論の系(クリプキ)ではないこと、しかし私的言語批判は規則論とは独立なのではなく規則論に独立の論点を付加することではじめて有効な論証として成立すること、非還元的な意味論的事実による意味論的懐疑の「正面からの解決」の可能性は私的言語論によって否定されるのではなく規則論だけによって否定されることが明らかになった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

①昨年報告した通り次のような事情から研究全体を、申請した内容より一段階基礎的な水準に設定しなければならないことが明らかになった。本研究の申請後(平成23年2月)P.ホーウィッチ(NYU)との議論を通じて、研究の核心であるDMについて、特に米国において私が予想していた以上に抵抗が強力であることが判明した。申請の段階では、初年度にDMの意味論としての包括的な適用可能性を示すことで、間接的にDMの妥当性を正当化する研究に取り組む予定であった。しかしそれより一段階前の準備作業として、DMの妥当性を直接示していくことが必要であることが明らかになった。
②申請時想定されていなかった教育方面の仕事の依頼があり、今年度はエフォート率が20%ほど下がった。
③①②の要因によって研究の遅れが生じているものの、前年度と今年度においてDMの妥当性を直接正当化する研究はおおむね順調に進行している。

今後の研究の推進方策

本研究の[研究目的1]は次のようにまとめることができる。ウィトゲンシュタイン哲学に基づく意味のデフレーショナリー理論DMを提唱し、それに基づいて現代の意味についての諸理論を、記述的意味論-メタ意味論 (形而上学的意味論-経験主義的意味論)という新しい観点のもとに再編成する。今年度は研究の最終年度なのでこの[研究目的1]を次の研究を通じて達成したい。
①1.意味論的な事実に訴えた「正面からの解決」の可能性を吟味し、2.意味論的パラドックスが定式化不可能であるという議論を吟味し、3. C. ライトによる「懐疑論的解決」についてクリプキの懐疑論的解決との相違を明らかにすることを通じてその妥当性を吟味する。そしてこれら三つの考察を通じて、形而上学的意味についてDMの含意を明らかにする。
②1. ウィトゲンシュタインの意味論の特質として指摘される「厳格有限主義」の内実を吟味し、2. DMの一つの条件(「私による記号の使用と理解によって意味は成立する」)を明示的に規定することの困難を吟味し、3.三次元意味論(0次内包-1次内包-2次内包)の定式化の可能性を吟味する。そしてこれら三つの考察を通じて経験主義的意味についてのDMの含意を明らかにすること。
③投稿中の論文‘Fomulation of Grammar of Sensations'において論じきれなかった論点(私的言語論はどのような構成と含意をもっているのか)を統合した新しい論文を執筆する。それによってウィトゲンシュタインの感覚についての考察から、1. 感覚の文法の積極的な規定、2. 私的感覚の否定、という二つの洞察を抽出し、その二つの構造的な連関を明らかにする。そしてそれによって私的言語論との関連において、形而上学的な意味および経験主義的な意味についてDMの含意を明らかにする。

次年度の研究費の使用計画

①申請段階では25年度は世界哲学会に応募する予定であったが以下のような理由から第36回国際ウィトゲンシュタインシンポジウム(ウィーン)に応募することに変更する。
1. 前者と比較して後者においては、発表により長い時間が割り当てられるのでより密度の濃い討議が可能となること、2. 後者に出席する研究者の関心がずっと限定されているため本研究にとって意義が高いこと、3. 今年開催されるウィトゲンシュタインシンポジウムの内容(Mind, Language, Action)が本研究にとってきわめて意義深く重要であること。この変更に対応して旅費等を使用する予定である。
②執筆予定の論文を海外雑誌に投稿する可能性を検討している。(執筆の内容によって国内学会への投稿に変更する可能性もある)。その場合予定より多めに校閲費に使用することになる見込みである。
③研究内容の修正にともない[研究目的2]のための必要な書籍は出費を控え[研究目的1]に必要不可欠な書籍に充当していく予定である。
④25年度は研究の最終年度にあたるので、当初の予定通り研究成果報告書の作成および郵送等に費用を確保しておく。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2012

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] On Semantic Skepticism: Wittgenstein's Paradox of Rule Following and Kripke's Semantic Paradox2012

    • 著者名/発表者名
      Ken Shigeta
    • 雑誌名

      The Proceedings of 35th International Wittgenstein Symposium 2012,

      巻: 35 ページ: 309-312

    • 査読あり
  • [学会発表] On Semantic Skepticism: Wittgenstein's Paradox of Rule Following and Kripke's Semantic Paradox2012

    • 著者名/発表者名
      Ken Shigeta
    • 学会等名
      Austrian Ludwig Wittgenstein Society
    • 発表場所
      Kirchberg am Wechsel (Austria)
    • 年月日
      20120810-20120810

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公開日: 2014-07-24  

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