研究課題/領域番号 |
23520024
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
柏木 寧子 山口大学, 人文学部, 教授 (00263624)
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研究分担者 |
上原 雅文 神奈川大学, 外国語学部, 教授 (30330723)
吉田 真樹 静岡県立大学, 国際関係学部, 准教授 (20381733)
栗原 剛 山口大学, 人文学部, 准教授 (50422358)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 倫理学 / 思想史 / 神・仏 |
研究概要 |
今年度は、共同研究者各々が自らのテーマに関する研究を行うとともに、全員で分担して『八幡宇佐宮御託宣集』読解のための基礎資料作成を進めた。また、連携研究者(東京大学名誉教授・佐藤正英氏、山口大学准教授・栗原剛氏)も加えて二度にわたる実地調査(忌宮神社飛地境内満珠島・干珠島、石清水八幡宮)を行い、景観面のアプローチを通じ、神・仏観念および八幡信仰の生成・展開をめぐる議論を深めた。 各自の研究実績は次の通りである。研究代表者・柏木は、日本の倫理思想史上、とくに説話(あるいは広義の物語)が捉えてきた「仏」観念の核に関し、『今昔物語集』天竺部の釈迦仏前生譚に即して考察した。天竺部諸説話は、仏を構成する基本的契機として、特異な質の知および慈悲を描く。その特異な質、いわば仏の仏たる所以は、仏が前生に修した菩薩行、就中捨身の慈悲行に由来するという「仏」理解が、天竺部諸説話に観取された。 研究分担者・上原は、神仏関係思想が日本人の倫理観の形成にどのように作用しているかを解明すべく、古代から現代に至るまでの葬送儀礼と霊魂観の変遷を整理し直した。結果、原初神道と仏教とが相互に作用し合い、部分的に融合し、それぞれに変容していく構造が明らかになった。また、「自力・他力」概念について議論した「公共哲学京都フォーラム」参加を機に、和辻哲郎や西田幾多郎における仏教思想摂取の特徴を考察した。 研究分担者・吉田は、『八幡宇佐宮御託宣集』の基礎的研究のための託宣年表を作成するとともに、神仏習合を論じるための方法論的練磨を行った。具体的には、仏教的要素を排除して行われた和辻哲郎の近世芸能論を、古代・中世の仏教モデルをも含めた通時的な観点から批判し、神仏習合の宝庫としての近世芸能を神仏習合論の研究素材として取り戻すことを提言した。また、和辻を継いだ相良亨以来の倫理学・日本倫理思想史における方法論的反省を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 文献の蒐集・読解、読解のための基礎資料作成の状況:共同研究者各自において、研究の準備、および研究は、おおむね順調に進展している。神観念の生成に関する原理的な研究においては、佐藤正英『古事記神話を読む』(青土社)刊行の成果があった。仏観念の生成に関する研究においては柏木寧子「『今昔物語集』天竺部における釈迦仏および衆生の理解(4)」の公刊があった。神・仏観念の展開に関する研究においては、上原雅文「日本人の霊魂観」の発表および論考の公刊、吉田真樹「近世庶民仏教思想と和辻思想史図式の捉え直し(中)」の公刊があった。『八幡宇佐宮御託宣集』読解のための基礎資料作成の作業は、当初計画を若干変更し、全員で分担して進めた結果、作成作業はほぼ完了した。現在、発表のための調整段階にある。 (2)現地調査の状況:当初計画を若干変更し、九州地方北部の調査を次年度に回し、次年度の予定であった石清水八幡宮の調査を行った。現地で資料を蒐集し、男山の立地条件(川の合流地・水源、大阪湾と奈良との関係)を考察した。また、次年度に予定していた九州地方南部の調査を取りやめ、今年度、忌宮神社飛び地境内満珠島・干珠島の調査を行った。忌宮神社は仲哀天皇を祀り、後に神功皇后・応神天皇が合祀された神社で、歴史的・祭神的に宇佐八幡宮との関係も深い。今回、満珠島に上陸し、神の島としての景観の特徴を考察した。また修験の痕跡も確認することができた。(3)研究会の状況:共同研究者各自の研究の成果を持ち寄り、8月および3月に研究会を開催した。8月の研究会では、佐藤正英『故郷の風景』の合評会を行い、神・仏が共存する風景の構造とその倫理的な意味について議論した。外部の研究者(山口大学名誉教授・豊澤一氏)も招き、その意見を拝聴した。3月の研究会では、佐藤正英『古事記神話を読む』の合評会を行い、神観念の生成についての議論を行った。
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今後の研究の推進方策 |
次年度使用額が生じたのは、主として次の事情による。 (1) 平成24年度より研究分担者1名(山口大学准教授・栗原剛)の追加が承認された。 (2) 平成23年度、当初予定になかった謝金(連携研究者・東京大学名誉教授・佐藤正英の講演のテープ起こし)が発生し、24年度以降も謝金の必要が見込まれるようになった。 以上(1)(2)より、平成24・25年度について当初予定を超えた経費が必要となり、23年度交付額の一部を繰り越すこととした。 今後の研究計画について、大きな変更はない。ただし、当初は平成24年度に2回、実地調査を兼ねた研究会を実施する計画だったが、うち1回について研究会のみとし、実地調査を行わない。実地調査は、8月に、当初平成23度に計画していた九州北部の寺社およびその周辺の調査を行う。具体的には、神仏習合の根拠地であった国東半島の寺社、および香春神社・筥崎宮・香椎宮・住吉神社など、大分・福岡地域の寺社についての現地調査を行う。1回を研究会のみとしたのは、文献研究と議論に多くの時間を充てる必要が想定されたためである。今後も共同研究者各々が必要な文献を蒐集し、自らのテーマに従った研究を進めるとともに、八幡信仰をめぐる共同研究を続行する。具体的には、連携研究者・佐藤が『現存の学としての倫理学』を執筆中であり、公刊後は合評会を行う予定である。柏木は、引き続き『今昔物語集』を読解し、仏観念の生成について具体的に解明するとともに、物語という形態自体の倫理学的意味についても考察する。八幡信仰における神・仏観念の展開に関する研究は、新たに栗原を加えた3名でそれぞれに進める。栗原は近世における展開を分担研究する予定である。上原は、本地垂迹思想の再検討を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度より、研究協力者1名(山口大学准教授・栗原剛)の追加が承認された。従来の連携研究者1名(東京大学名誉教授・佐藤正英)とあわせ、共同研究者計5名が自らのテーマに従った研究を進めるため、必要な文献を蒐集する(物品費)。研究成果をまとめる過程で、必要に応じ、テープ起こし等の作業を研究協力者に依頼する(謝金)。また、八幡信仰をめぐる共同研究の一環として、8月に九州北部への実地調査を行う(旅費)。3月には各々が研究成果を持ち寄り、研究会を行う(旅費)。実地調査では、必要に応じてレンタカーを、研究会では、必要に応じて会議室を借り上げる(その他)。
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