研究課題/領域番号 |
23520024
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
柏木 寧子 山口大学, 人文学部, 教授 (00263624)
|
研究分担者 |
上原 雅文 神奈川大学, 外国語学部, 教授 (30330723)
吉田 真樹 静岡県立大学, 国際関係学部, 准教授 (20381733)
栗原 剛 山口大学, 人文学部, 准教授 (50422358)
|
キーワード | 倫理学 / 思想史 / 神・仏 |
研究概要 |
今年度も引き続き、共同研究者各々が自らのテーマに関する研究を行うとともに、『八幡宇佐宮御託宣集』読解のための基礎資料作成を進めた。また、連携研究者(東京大学名誉教授・佐藤正英氏)も加えて、筥崎宮・香椎宮等福岡方面への実地調査を行い、八幡信仰の発生・展開に関して景観の観点からも議論を深めた。 各自の研究の実施状況は次の通りである。研究代表者・柏木は、『八幡宇佐宮御託宣集』に基づく託宣年表を整備するとともに、『今昔物語集』天竺部における「仏」観念について、テクストに先行する理解も含め、可能な限り全体的に把捉することをめざして、仏および仏の知にかかわる諸論点の抽出、基本的構図の検討を行った。 研究分担者・上原は、柏木・吉田の作成した『八幡宇佐宮御託宣集』託宣年表を整理し、問題点を洗い出し、公表のための準備的検討を佐藤とともに行った。また『古事記』に見られる大物主神話を題材とし、「神」観念の生成と展開について、故郷世界に対する求心的閉鎖性と異郷世界への遠心的関心性という矛盾する志向性の関係から原理的に検討し、併せて、三輪山などの神に関わる聖地の構造を考察した。 研究分担者・吉田は、『八幡宇佐宮御託宣集』に基づく託宣年表を整備するとともに、神仏習合を論じる方法論確立のために和辻哲郎の仏教排除的、宗派主義的な近世芸能論を批判し、説経『刈萱』を中心に考察し論文発表した。また八幡神の存立基盤とみられる霊魂について考察を深め、『源氏物語』の六条御息所の場合について論文発表した。 研究分担者・栗原は、『源氏物語』と、同じく恋愛を主題とした近松らによる近世町人文学とを、倫理思想史的観点から比較考察した。両者の接点を主人公の情死への衝動と仏による救済への願望に見ることで、古代から近世にいたる「仏」観念の変容の一端を明らかにするとともに、情死と「神」婚の関係解明に向かう端緒をも得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)文献の蒐集・読解の状況:共同研究者それぞれが、自ら分担する研究の準備および研究をおおむね順調に進めつつある。神・仏観念の生成に関する原理的な研究として、連携研究者・佐藤による倫理学原論の執筆が進行中である。仏観念の生成については、物語という思想形態との関わりに焦点を定めた柏木の検討も継続している。神観念の生成と展開に関しては、上原が『古事記』読解に基づいて「日本古代の神観念と自然景観の構造化」を発表した。また上原は、神・仏観念の関係と相互変容に関しても、中世の物語文献を読解し研究を継続している。近世の神・仏観念の展開に関する研究として、吉田による「近世庶民仏教思想と和辻思想史図式の捉え直し(下I)~説経『刈萱』を中心に~」、栗原による「『源氏物語』における情死の可能性―近世町人文学からの視座」の公刊があった。 (2)現地調査の状況:当初計画を若干変更し、九州北部のうちでも福岡県内に範囲を限定した調査を8月に実施した。住吉神社・筥崎宮・香椎宮・志賀海神社・宇美八幡宮等、八幡信仰の生成と展開にかかわる諸社の景観を調査し、議論を深めた。 (3)研究会の状況:共同研究者各自が研究成果を持ち寄り、8月および3月に研究会を開催した。八幡信仰についての共同研究では、『宇佐八幡宮御託宣集』に基づく年表を、柏木・吉田が8巻ずつ分担して作成し、連携研究者・佐藤および上原による準備的検討を経て、全員の検討により、最終的調整の方針を決定した。また、各自のテーマに沿った研究についても、それぞれの経過報告を受けて議論を行い、成果公表の準備をなした。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画について、大きな変更はない。最終年度である平成25年度は、八幡信仰をめぐる共同研究の一つの成果として、『八幡宇佐宮御託宣集』読解のための基礎資料「『八幡宇佐宮御託宣集』を読むために(仮題)」を完成・公表するとともに、各自が自らのテーマに従った研究の総括をめざす。 各自の研究の具体的計画は次の通りである。連携研究者・佐藤は現在、倫理学原論を執筆中であり、公刊後は合評会を行う予定である。柏木は『今昔物語集』天竺部読解を踏まえ、物語という思想形態との関わりにおける仏観念の生成について考察をまとめる。上原は中世の神・仏観念の展開について研究を進め、特に八幡信仰と浄土信仰(念仏)との関係について考察し、論文を執筆する予定である。吉田は八幡大菩薩の霊魂に関して論文を執筆するとともに、武士道思想における霊魂観についても研究を進める。平成24年度より分担者に加わった栗原は、近世の文芸を対象とした神・仏観念の展開に関する研究を続行するとともに、近世儒学に顕著な伝統的超越観念「天」との相関についても、考察を進める。 なお、8月および3月に研究会を実施し、研究成果をめぐる議論を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
繰越額が発生したのは、主として次の事情による。 (1)平成25年度中、2回実施する予定の研究会について、開催地の変更(東京都→神奈川県)にともない、連携研究者・分担者の旅費増額が必要となったこと。 (2)平成24年度末に行った若干の図書発注について、年度内の納入が困難となり、予算処理がキャンセルとなったこと。 以上(1)(2)により、平成24年度交付額の一部を翌25年度に繰り越すこととなった。 平成25年度の研究費については、研究会参加旅費(神奈川大学・4名・4日間×2回)、および物品費(図書)としての使用を計画している。
|