研究課題/領域番号 |
23520029
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
森岡 正博 大阪府立大学, 人間社会学部, 教授 (80192780)
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キーワード | 生命の哲学 / 生存肯定 / 誕生肯定 |
研究概要 |
(1)デイヴィッド・ベネターの『生まれてこなければよかった』論の批判的検討を行ない、論文2本を発表した。そのうち、論文「〈生まれてこなければよかった〉の意味」では、「誕生肯定」概念に新たな意味を付与することが可能であることを示すことができた。 (2)「道徳性の生物学的エンハンスメント」論についての批判的検討を行ない論文を刊行した。サヴァレスキュらの論は英語圏の生命倫理学において注目を集めつつあるが、それが出口のない思索であることを示すことができた。 (3)人称的世界の哲学のトピックである「他我問題」に関して、「他我はこの私である」という命題がどのような意味を持っているのかに新たな光を当てる論文を発表した。この世界に存在するのは誰なのかという形而上学にひとつの問題提起をなすことができた。 (4)ミシガン州立大学3校にて、「生命の哲学」および「現代セクシュアリティ論」をテーマとした連続学術講演を行ない、本研究で蓄積された知見を海外へと情報発信し、専門家・一般市民と交流した。 * 以上を総合して、「生存肯定」の考え方を、さらにその先にあると考えられる「誕生肯定」にむけて展開することができたと同時に、その「誕生肯定」の内実を哲学的に分析することに成功した。これは今後の生命の哲学にとって大きな問題提起となるはずである。また、米国ミシガン州立大学において連続公演を行なうことをとおして、本研究の存在を米国の研究者・一般市民に伝えることができたのは大きな成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、課題であったBenatarのAnti-natalismの哲学の検討を本格的に行なうことができ、それを通して、誕生肯定の概念を深く精密に掘り下げることができた。これは本科学研究費の中心をなす研究であり、それを達成することで研究は着実に折り返し点を越えたと判断される。 また、海外との研究連携に関しても、米国のミシガン州立大学3校において連続講演会を行なうことができ、本科学研究費の課題のひとつであった海外への研究成果の発信と国際的な研究者のネットワーキングを効果的に遂行することができた。 以上により、おおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度が最終年度となるので、本研究の総まとめを行なう。 まず、生存肯定を誕生肯定として捉え直すときに浮かび上がってくる哲学的諸問題を考察する。すなわち、そもそも「誕生」とはいったい何なのかについて形而上学的考察を行ない、本研究の基盤とする。これはメタ生命の哲学とでも呼ぶべき作業となるであろう。 さらに、誕生肯定の概念で把握されたものを、「生命と人間の尊厳」という枠組みで再解釈する試みを行なう。すなわち、生まれてくることの尊厳とは何かについて哲学的考察を行ない、尊厳概念を媒介にして「生命」と「人間」をつなぐ試みである。それをもって本研究の総括としたい。 昨年度と同様、本学の現代生命哲学研究所より刊行している『Journal of Philosophy of Life』および『現代生命哲学研究』の編集および執筆を行ない、本研究で得られた学術的知見を広く内外の専門家・一般市民へと還元する。
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次年度の研究費の使用計画 |
生存肯定・誕生肯定・尊厳に関連する資料収集を行なう(物品図書費)。 医療倫理、生命哲学、応用哲学の最新文献・図画の閲覧および関連学会等への参加を行なう(旅費)。なお今年度は海外への研究旅行は考えていない。 研究の国際交流および論文の海外学術誌への投稿のために、ネイティブによる論文の翻訳・校閲が必要となる(翻訳料)
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