研究課題
本研究は、近代日本において哲学的観点からの日本思想史研究が成立するにあたって、大きな影響をあたえたドイツ文献学・解釈学の受容と、それをめぐる思索および受容自体の変容を、倫理思想史的に振り返り、日本思想史研究の方法的意義と可能性を探るものである。最終年にあたり、初年度、二年度の知見をもとにその欠を補う調査をつづけ、一方、総合的なまとめに着手した。文献学・解釈学受容の典型である和辻倫理学と倫理思想史との関係を、その原理性の側から解く従来の研究の総覧をこころみ、その成果を発表、論文等で、公表した。また、思想史研究の展開において、唯物論・マルクス主義的立場、そしてそれに影響をうけた他の解釈学的立場も、いわば「社会的存在論」ともいうべき傾向を示すが、その影響関係を、土田杏村の社会哲学の方向、政策論、経済論などの哲学的原理的志向と彼の精神史の構図との連関に集約して明らかにして、方法論的な視点からの唯物論、和辻倫理学との対抗関係をあきらかにした。ドイツ文献学、解釈学の受容についての総合的考察も、調査検討をつづけ、主要な諸点を明確化できたと考える。以上の考察を基盤にして、哲学的原理と思想史研究の解釈学的な手法との不可分な関係をめぐる思索,方法、思想史像の構築の歴史を、近代日本の哲学史・倫理学史の一表象として考察を深めることができた。また日本思想史の方法的考察は、近代の哲学的倫理学的方法の摂取という問題にとどまらない。思想史的方法は、自らの伝統との対峙をともなっていた。その点でも3年間の研究期間を通じて中国での国際学会、台湾での研究発表討論会によって、東アジアでの、伝統思想と近代哲学、倫理学の関係を問うという、当初の予定の通り成果を得た。本研究によって戦後の思想史研究のなかで生起した問題、あらたな思想史像、思想史方法論の検討の方向性などについても、ほぼ視野に入れることができた。
すべて 2013
すべて 図書 (1件)