研究課題/領域番号 |
23520037
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
矢嶋 直規 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (10298309)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2017-03-31
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キーワード | 近代哲学 / イギリス経験論 / 倫理学 / ヒューム / 道徳感覚 / 合理論 / ジョセフ・バトラー / スコットランド啓蒙 |
研究実績の概要 |
2015年度の研究成果としては二本の学術論文(内招待論文一本)を公刊し、二回の講演を行い、またスコットランド思想研究で著名なエディンバラ大学教授ジョナサン・ハーン教授を招聘して講演会および研究会を主催した。 単著論文「バトラー道徳哲学における人間本性――バトラーとヒューム――」では、ジョセフ・バトラーの『十五説教』における人間本性論をヒュームの人間本性概念と比較検討した。同論文においてヒュームの道徳感情論がバトラーによるホッブズ批判としての良心論を発展させたものであることを示し、さらにバトラーの習慣論とヒュームの習慣論とを対比して両者の習慣論が道徳論の基礎として重要な役割を果たすことを明確にすることができた。 また2014年度に「スピノザ協会」の招待講演で行った発表を発展させ「神即自然と人間に固有の自然」と題する論文を公刊した。同論文においてヒュームとスピノザの自然概念を比較考察し、ヒュームの自然概念の本質が人間固有の自然に基づく共感や道徳感情のあることを論じた。それによってヒュームにおける道徳感情論の成立の背景を解明することができた。 2015年5月には、関西学院大学経済学部で「ヒュームの人間本性論について」と題する講演を行い、ヒューム哲学が道徳感情論を中心とする自然主義であることを明確にした。11月14日には「ライプニッツ研究会」第7回シンポジウムで「ヒューム哲学における予定調和」と題する招待講演を行い、ヒュームの道徳感情による秩序形成論の背景としての合理主義における調和論への批判を考察した。 2016年2月にはエディンバラ大学のジョナサン・ハーン教授を招聘し、ヒュームとスミスの道徳感情論研究についての研究会を5日間にわたって開催して情報提供を受けた。また同教授には、”How to Read Wealth of Nations” と題する講演を依頼し、コメンテーターとして議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年度は本研究課題の重要な成果を得ることができた。その最大の成果は、ヒューム道徳哲学成立に果たすイギリス道徳感覚学説の発展史をシャフツベリとバトラーの関係を軸に考察し、バトラーが仁愛の感情と利己心を同時に批判する根拠とした自然概念の捉え直しがヒュームにおいても重要な意義を有することを解明したことである。これによって、これまで一般に想定されていたようにシャフツベリ、ハチソン、バトラー、ヒューム、スミスと続く道徳感情論が、ホッブズ批判を共通の旗印にいわば直線的に発展したというのではなく、それぞれの体系における自然概念の位置づけに応じて道徳感情が異なった役割を果たしていることを明確にすることができた。公刊論文において、ヒュームとバトラーの関係を自然本性の概念のみならず、習慣概念についても詳細に検討し、モラリストとしてのヒュームの立場がバトラーと親近的であることを論証したことも重要な成果であった。 またヒュームの道徳感情学説は、スピノザ、ライプニッツらの大陸合理主義への批判を重要な契機としつつ成立したことを2014年度に行った講演をさらに発展させることで論文にまとめることができた。 国際的な研究協力においては、プリンストン神学大学、スコットランド哲学研究所所長ゴードン・グレアム教授、及びエディンバラ大学、ジョナサン・ハーン教授と連携することで本研究の発展の方向性について重要な手掛かりを得ることができた。本務校で開催したハーン教授による講演を元に、スミスとヒュームの道徳感情論の関係を議論した。その結果、スコットランド哲学の発展においてヒュームの道徳感情が一般的信念としての「コモン・センス」へと展開することを確認した。2015年度までの研究により本研究課題の最も重要な目的を達成し、本研究を次の研究課題へと発展させる重要な手がかりを得ることができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度はこれまでの研究成果をさらに発展させ、ヒューム道徳哲学成立史における道徳感覚学説の意義をバトラーによる合理主義と道徳感覚学説の統合の試みとの比較によって考察する予定である。とりわけ、バトラーに対するサミュエル・クラークの関係を、ヒュームと合理主義の関係と比較し、ヒュームがバトラーによる自然神学に基づく啓示神学の正当化を、認識論による道徳論の基礎付けとして転用した理論構造を考察する。 2016年度後半からはゴードン・グレアム教授の研究協力の下で、ヒュームの道徳感覚学説に対するスコットランド哲学との関連を考察する。その際、ヒュームが自然神学への批判を蓋然性の理論に基づく道徳哲学の基礎付けとして転用したことが、トマス・リードを初めとするその後のスコットランド常識哲学派によってどのように受容されたかを解明する。その研究成果を学会、研究会で発表するとともに論文として公刊する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年度米国プリンストン神学大学スコットランド哲学研究所での国際学会に出席し、また同研究所で研究を行う予定であったが、2016年1年間の研究休暇を取得して同研究所に所属することが決定した。そのため基金の一部を2016年度に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
米国プリンストン神学大学スコットランド哲学研究所を拠点として、課題についての研究を行い成果を発表する。
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