研究課題/領域番号 |
23520038
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
荻野 弘之 上智大学, 文学部, 教授 (20177158)
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研究分担者 |
早川 正祐 上智大学, 哲学研究科, 研究員 (60587765)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | アリストテレス / 倫理学 / 徳論 / ヘレニズム |
研究概要 |
研究の初年として予定された課題を少しずつこなしている段階である。(1)『エウデモス倫理学』第3巻の徳論、及び『大道徳学』第1巻について、主として集中的な研究が行なわれた。写本の比較、研究史の総覧をふまえて、弁証論的な視点、また「著作と草稿の違い」という観点を持ち込むことで、イエーガー以来ケニーに至るまでの単純な「思想の発展」図式には収まらない倫理学書相互の比較の視点を開拓しつつある。(2)夏季休暇期間中を利用してパリ、ローマで当地の研究者数名と意見交換、研究打合せ、資料収集を行ない、いくつかの成果を得た。その際に印象的だったのは、2000年以来英語はもちろん、スペイン、フランス、イタリアなどで続々と『エウデモス倫理学』に関する新しい翻訳や研究が刊行されていて、専門研究者のみならず一般読者にも関心が広がりつつある現象である。日本では翻訳書が刊行されて以来(茂手木元蔵訳、岩波書店1968年)、ほとんど研究が進展しておらず、『ニコマコス倫理学』に較べて著しく遅れているが、この点での危機感を共有する研究者も少なくない。(3)年度末に米国からの二人の研究者(エール大学教授スティーブン・ダーウォール氏、マイアミ大学教授マイケル・スロート氏)が来日し、2012年3月中旬に上智大学、慶応大学、東京大学で研究会、セミナーが開催されたのを機会に、本研究課題に密接に関係するアリストテレスの徳倫理学及びストア派の「義務」の概念をめぐって意見交換を行なった。その結果、ヒュームにもとづく最近の徳倫理学の展開や「二人称的立場にもとづく契約主義的な正義論」が、古代哲学との親近性を予想以上に持っているという印象を深めた。今後の研究への展望として重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究会の実施とその記録、文献の蒐集と資料調査など、予定していた活動はほぼ順調に進んでいる。海外の研究者との連携も進展している。ただしイタリア語、スペイン語、現代ギリシア語による新しい研究文献が入手されたものの、語学力の問題があって研究成果を正確にフォローするのにかなり時間を取られており、この点ではやや進捗状況に遅滞が生じている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究を通じて実感されたのは、『エウデモス倫理学』独自の部分のひとつである第7巻の理解に、予想以上の問題が伏在している。これにはジャクソン以来、写本の読み方を巡る問題が輪をかけており、問題を複雑にしているが、そのため本年度においては研究の中心をただちに『大道徳学』へ移行する以前に、通常「友愛」と訳されることの多いphiliaについて『ニコマコス倫理学』第8-9巻との比較を含めて再考する作業が不可欠である。またこの点で、新しい注釈書を準備中と伝えられるロンドン大学のウルフ教授、トロント大学のインウッド教授らともメールで連絡を取り合い、研究情報を交換するほか、国際的な研究集会の企画なども念頭に入れている。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費:3月末に故障したノートパソコンを買い換える必要が生じたため、4月早々に新規に購入する(約190,000)予定。旅費(海外):ギリシャ(テッサロニキ、アテネ)で8月末に研究打合せ及び現地資料調査を実施するために10日間渡航する予定。消耗品費:いくつか古書(国内外の書店から)を購入する。古くて著作権の切れた名著を写真製版によって復刻する版が最近は増えており、これにより重要な歴史的文献を調査することが可能になりつつある。それ以外はおおむね昨年に準じる。
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